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今までゲイを隠すために男女問わず愛想を振りまいてきたけれど、ここ最近はどうでもいいという感情が強くなっていた。バレる時はバレる。バレない時はバレない。どんなにノーマルぶっていても、隠しきれないものもあるだろう。
……佐野に、真壁に対する気持ちがバレてしまったように。
「ゆうちゃん」
「麻広ちゃん。どしたの」
ととと、と小さな歩幅で近付いてきたのは、真壁の従姉妹である真壁麻広 ちゃん。俺たちより5歳ほど年上の彼女は、年齢差を感じさせないくらいに可愛くて小さくて、いつでもいい匂いでふんわりした雰囲気で。大人の女性なのに、いつまでも"女の子"なひとだ。
中学から彼女を知っているけれど、本気で怒ったとこなんて見たことなくていつだって優しい。もし女の子のことを好きになれたなら、こんな子に傍に居て欲しい――と。初めて思った子。
キャンパスの事務員として働く麻広ちゃんはその仕事の合間を縫ってきたのか少しだけ呼吸を荒くして俺の前に立った。
体力のない細い身体は、ほんの少しの距離を走っただけで息切れと疲労を濃く見せた。けれど麻広ちゃんは構わず数回頭を横にぶんぶんと振って、両手を俺の肩に乗せてきた。
「金曜日の夜! 女子会しよう!!」と言い放って。
つっこみどころはたくさんあるのに、見下ろす麻広ちゃんの顔が真壁とだぶって見えてじわりと目頭が熱くなった。
……それは、ずるいよ。麻広ちゃん。
女の子は、皆かわいい。やわらかくて、いい匂いで、かわいい。そうは思うのに、恋愛の対象にだけは、絶対にできなかった。
男女との恋愛でも上手くいかないことなんてごまんとあるのだから、男同士の恋愛なんて目も当てられない惨状ばかりだし、幸せになんてそうそうなれない。
だから、女の子と恋愛した方がずっといいんだ。メンタル的にも、世間体的にも。
けど、できない。
どれだけ麻広ちゃんが可愛くて、真壁に似た顔をしていても、女という性を持っている限り恋愛は出来ない。
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