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 いつものくたびれたオッサンだらけの、くたびれた居酒屋。  大学生が通うには渋いその店を選ぶのは誰にも見つからないため――というのは二の次で、麻広ちゃんは本来こじゃれたカフェやらバ―やらより、こういうお店が好きらしい。 「だって、ご飯が美味しいんだもの」  約束の金曜日。  あぐあぐと小さな口で串焼きを平らげ、ごくごくとビールを飲んでいる。  狭い店内はたくさんのお客さんで賑わっていて、時折顔なじみの客が俺たちのテーブルに差し入れをくれたりした。その度に麻広ちゃんはジョッキを持って乾杯をし、新しいジョッキを持って戻ってきていた。 「女友達と行くお店もね、悪くはないんだけど……」 「高い、まずい、少ない」 「正解ーーー!! ほんとそうなの! でも誰も言わないから言えない!!」  わっと顔を覆って泣き真似をしたかと思えば今度は出し巻き玉子を口に放り込み、もぐもぐと咀嚼している。  じっと見ていたら、こちらを見る麻広ちゃんの視線が一瞬だけたじろぎ逸らされた。 「どしたの」 「な、何でも……」 「……今日の女子会、いつもより早いね」 「……」  月1のそれは、いつもよりスパンが短く今月はすでに2回目だ。  何か理由があるのか、となんとなく問い掛けただけなんだけど、麻広ちゃんの喉がきゅうっと鳴いた。 「元気、なさそうに見えたから」 「え?」  飲み干したビールジョッキを見つめ、けふっと息を吐き出しながら麻広ちゃんはそう零した。すごく、言い辛そうに。 「やまくんと、志摩くん。付き合うことになったでしょう?」 「……ああ、」  俺を見つめてくる麻広ちゃんの瞳に、じわじわと涙が滲んでいる。たかだかビール2、3杯で酔うわけがないのを知っているから、その潤みが何から来ているのかってのも、軽く想像できる。  決して口に出すことはなかったけれど、麻広ちゃんは俺の真壁に対する想いを察していた。元々男が好きっていうことは打ち明けていたから、誰を好きかと知られてもさして気にはならなかった。佐野のようにおもしろおかしくからかう子ではないと知っていたし、何より麻広ちゃんは気付いたうえで知らぬふりをしていてくれたから。

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