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「……平気なふり、してた筈だけど」
「私を誤魔化せるわけないでしょ」
麻広ちゃんは俺の眉に冷たい指先で触れてきゅっとつり上げてきた。
「ここ、下がりっぱなし」と笑って。
「んな情けない顔してた?」
「うん。ずうっと」
「情けな」
「そんなことないよ」
麻広ちゃんは顔を横に振って「ごめんね」と囁き、手を離した。
何に対する謝罪なのか――問い詰める前に彼女は続けた。
「ゆうちゃんが自分から言ってくるまでは黙っていようと思ってたんだけど」
「……?」
言葉を詰まらせた彼女に続きを促すよう、こてんと首を傾げてその瞳を見つめる。でっかくて、きらきらしている目。真壁と似ているのに、全然違う、目。
「泣いても、いいんだよ」
「え?」
「私の前では……強がんなくても、いいんだよ」
ぐっと後頭部を掴まれたと思えば、胸元に顔を押し付けられた。
残念ながら麻広ちゃんのそこはつるぺたなため柔かさに顔が埋もれるということはなかったのだけど、頬に心地よいぬくもりと穏やかな鼓動が伝わり、思わず目を閉じた。
そのまま麻広ちゃんは俺の頭をやわやわと撫でてくれて、その優しさに目頭が熱くなった。
隠さなくていい、と落とされる言葉を何度も反芻して、噛み締めて、息を飲んだ。
「……麻広ちゃん」
「うん?」
「……おれ、ね」
恐る恐る手を伸ばして、麻広ちゃんの服をぎゅっと掴む。
こんなの、誰にも見せられない。こんなガキくさくて情けない姿、誰にも。
「真壁が、好きだった」
「……ん」
「好きなんだよ、今でも……ッ」
一度綻んだ心の隙は、簡単に気持ちを零していく。
誰にも打ち明けず胸の内に秘めてきた想いに溺れてしまいそうなくらいに、溢れていく。
苦しい。苦しい。――切ない。
あの腕に抱かれる聖が羨ましい。だけど、嫌いになんてなれなくて。ふたりの幸せを、壊す気にもなれなくて。
俺、どうしたいんだろう。俺の気持ちは、どこへ行けばいいんだろう。
『……ずっと真壁のこと好きだった神谷が、何を思ってるのか――すげえ、興味ある』
わかんねえよ。クソ佐野。こっちが聞きたいよ。そんなこと。
外野で酔っ払いサラリーマンたちが囃したてる声が聞こえるけど、構いはせず俺は麻広ちゃんの腕の中でびーびーと泣き続けた。
涙と一緒に、真壁への想いも流れてしまえばいいのに。
苦しいだけの想いなんて、いらねえよ。どっかいっちまえ。ばーか。
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