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駅前で待ち合わせ。
何の用か知らないけど20分遅れで到着すると、奴はすでに数人の女の子に囲まれていた。
このまま帰ってやろうか、と盛大な溜息を吐いて踵を返したと同時に、名前を呼ばれた。
顔面に憎悪の念を貼り付けて振り向けば、両腕を女の子に掴まれた状態の佐野が手を振っている。人ごみに紛れる俺なんか目に入ってなかったくせに、何で気付くわけこいつ。
「遅いんだけどー」
「あー悪い朝弱いんだわー」
棒読み丸出しで答えれば、脇にいる女の子が俺の頬を指先で突っついてきた。「何この子かわいー」だと。やかましいわ。
軽く10cm以上はあろうかという凶器のようなヒールを履いている側からすればそりゃあギリギリ170ない俺の身長は可愛いだろう。だけど、初対面の人間にそんなスキンシップ取られてへらへら笑ってられるほど能天気じゃない。
非難されることを承知でその指先を払いのけて、佐野を仰ぎ見た。
「何、用って」と短く問い掛けて。
案の定、高ヒール女子は「顔可愛いのに可愛くない」と文句を垂れているけれど、知るかよ。最高にやかましい。
佐野は佐野でそんな女の子を人のいい笑みを浮かべながら宥めて絡んだ腕をやんわりと振り払い、ひとりひとりに挨拶している。
俺の問いかけは華麗にスルーしておいて、5人の取り巻きを、ひとりずつ。
「なあ、用ないなら帰っていいか」
「ちょっと待って待って行きたいとこあんだよね」
「……」
なら、そのID交換を今すぐやめやがれ。
スマホを振ってアプリの「おともだち追加」を5人分終わらせ、やっとこっちを見た佐野はへらりと笑っていた。
メッセージ送るからね、と投げかける女の子たちに手を振りながらにこにこ、にこにこ。
俺に何の言葉もなく追い越して歩き出した佐野の後頭部を思い切りぶん殴りたい。
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