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「……俺、ちゃんと笑ってたじゃんか」 「何を突然」 「神谷が言ったんだろ。ちゃんと笑ってたのに、笑ってないとか」 「あれが笑ってる? 寒いこと言ってんなよ」  俺には水を押し付けたくせに、自分はしっかりとコーラを持っている。特に飲みたいわけではなかったけれど、俺たちの格差を示すようなそのチョイスに苛立って、コーラをぶん取りミネラルウォーターを押し付けてやった。  や、別にこいつより劣ってるとか、そういう風に思ったことはないけどな? 「本当の笑顔とはこういうのを言うんだ馬鹿め」  スマホに入っていた真壁と聖と俺の写真を見せつけた。  以前、写真サークルとやらに人数合わせで入った時に遊びで撮った数枚。使い方もわからない一眼レフを扱うのが楽しくて、子どもみたいに笑い続けた時に部長が撮ってくれた写真。  顔をくしゃくしゃにして、見かけも何も気にせず大口開けて笑っているあほ面が気に入っている。  だけど、佐野の笑顔はこんなじゃない。口角ばっかつりあげて、目はすうっと冷めきってて、普通に怖い。能天気が過ぎるのか、こいつに構ってる子たちは気付いてないみたいだけど。 「お前は、笑ってなんかない」 「……」 「だいたい、"ちゃんと"とか口走ってる時点で楽しいだなんて思ってないだろ」  返事も待たずにぽんぽんと言いたいこと全部言ってすっきりした。コーラでも飲んで喉を潤してやろうとキャップを開けて口に持っていったと同時に、ガシっと腕を掴まれた。 「あ?」 「……」 「おい、ちょ、待っ零れる!!」  強く腕を引っ張り、佐野は駆け出した。  まだ一口も飲んでいないコーラが、ばしゃばしゃと零れていく。もったいない! もったいない!!  俺の叫びを耳に入れるつもりはないらしい佐野は強引に腕を引っ張り続け、俺は道行く人にコーラをひっかけないようにと注意を促し続けた。

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