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「ッ、く、」
でなきゃおかしいだろ、たったこれだけでイくなんて。
直に触られていたわけでもないのに、俺のそこはあっけなく欲を吐き出して力をなくした。
脱力した身体は佐野にもたれ掛かったまま、呼吸を安定させることに必死で。顔を上げて、こいつの表情を確かめる気にもならない。
どうせまた小ばかにしたような笑い顔で鼻を鳴らすだけだろう。そんなの気分が悪くなるだけだ。わざわざ確かめるまでもない。
「……やるか」
「……。……あ?」
たっぷりの沈黙の後に吐き出された溜息交じりの言葉に、俺の身体はびしりと固まった。
――やるか。やるか、って。何を。……ナニを?
ブリキの人形にでもなったのように、上手く身体を動かせない。今すぐ背に回った手を振り解いて逃げ出したいのに。
「さの、さん? 何をおっしゃって?」
「セックス」
「んんっ?」
頭が沸いてるのかな!?
思い切り仰け反って佐野の胸板を押し退けたと同時に、下肢を押し上げていた足がぐりり、と確信的に動いた。
ぐち、と濡れた音と感触が気持ち悪くて全身が粟立つ。
……どうして俺の身体は、こんな快楽とはいえない刺激を快楽として拾い上げるのか。
へこむよりも早く、視界がぐらりと回転して目の前にフローリングの床が映し出された。
「佐野!?」
「"俺に得ひとつでもくれてみろ"だっけか?」
「は?」
「最高に気持ちのいい得をやるよ」
うわっ何その決め台詞。サムイし中途半端にダサい。
「あ、ちょっとまて、おちつけばか!!」
「ぜってー犯すお前」
声には出していないし、担がれてるから顔は見えていない筈なのに、佐野の声音と背中は怒りと羞恥を孕んでいて有無を言わせず寝室へと連行された。
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