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◆◇◆◇◆ 「喉、乾いた」  ぽとりと落とした言葉は自分でもびっくりするくらいに枯れていた。  喉を押さえてあ、あ……と声を出してみたけれど、見事に掠れた声は無様極まりない。イケメンボイスと持て囃されるまではないにしろ、良い声と褒めてもらえることは時々あったというに。今は、がっさがさのかっすかすで息が漏れ出るような声しか出せない。 「おら、水」 「……」  たぷん、と音を立てて揺れるペットボトル。良く冷えていて、飲めば喉を気持ちよくすっきりさせてくれるだろう。  そうは思うけれど、なんだか手が出ない。何と言うか、全身怠い。腕ひとつ、指一本すら動かすのが億劫で突き出されていたペットボトルからふいっと顔を逸らしてシーツにくるまった。  いらね、とだけ吐き捨てて。枯れ過ぎて言葉にならず空気が抜け出ただけっぽいけど。  言い返されるかな、と思ったけど佐野はすぐに手を引いて立ち上がった。同時に、ぱきんっと高い音が響いて肩を強い力で掴まれた。 「んんっ」  喉を流れていく、冷たい水。  驚きに見開いた瞳に映るのは、佐野のそれ。深い青を縁取る睫毛はやたらと長くて濃くて、化粧しているみたいだった。俺も散々女顔と言われてきたが、佐野もそうなんじゃないかな。小顔だし。  ってそんなことはどうでもいいんだよ。 「っ、ぷぁっ! おま、べろ入れんなよばぁか!!」  口うつしで水飲ませるとか映画やドラマの見過ぎだばぁか!!!  そのうえ、端から少し零してしまったものの注がれた水を飲み干したと同時に舌を突っ込んできやがった。  もう無理。無理だから。  たったそれだけで腰にじん、と覚えのある感覚が広がり誤魔化すように起き上がって佐野の手を払う。 「自分で飲む」 「ん」  腰に響く鈍い痛みは明らかに情事の名残で、素っ裸の自分自身を見下ろして「やっちまったなぁ……」とうなだれる。

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