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遅刻ぎりぎりの時間に大学へ着くと、何冊もの資料を抱えた麻広ちゃんを見つけた。
時計と、麻広ちゃんを交互に見て、うううんと唸る。
「持つよ」
「わ、ゆうちゃん! びっくりした」
やっぱり見過ごすことはできなくて、細っこい腕から分厚い資料を奪って首を傾げる。
「どこへ運べばいい?」と。
遠目にも機嫌の悪そうな顔をしていたのがわかったんだけど、現金な麻広ちゃんはすぐさま花開くような笑みを浮かべて隣の棟を指差した。
ありがとう、とお礼を言うのも忘れずに。
やっぱり、麻広ちゃんは可愛い。
最後に接した女の子が不躾な佐野の取り巻きたちだったから、余計に。
「……ねえ、麻広ちゃん」
「うん? あ、荷物持つね」
「あ、ありがと。あのさ……」
財布やら何やらが入った鞄を渡して、重たい資料を抱え直す。その間も、麻広ちゃんは「足元気をつけてね」という注意も忘れないという完璧な気遣いっぷりだ。
「佐野って、知ってる?」
「ゆうちゃんたちと同じゼミの? うん、知ってるよ」
「……あいつの、親のことも?」
言い淀みながら発した言葉は自分でも驚くほど小さく、まるで内緒話でもしている気になった。
麻広ちゃんは少し考えこむように顎に手を当てて視線をうろうろとさ迷わせ、足を止めた。
「麻広ちゃん?」
「……あんまり、いい話は聞かないの。彼自身がどうって訳じゃないんだけど、好き勝手言う人が多くて」
「好き勝手?」
「うん……例えば、彼を誘って渋っている時は親御さんのことをちらつかせれば断られないとか」
何冊もの資料を落としそうになった。……何だそれ。
「彼、元々名前は知れてるでしょう? それに加えてあの容姿だし、付き合いたいって言ってる子、多くて……」
「何それ……」
「私も言われたことあるのよ。勤めてる大学に居るんでしょう、紹介して欲しい、って」
「マジで」
真剣な顔で頷くと、麻広ちゃんは大きく息を吐き出した。
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