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 2週間後の金曜日に"女子会"の約束をして資料室を出ると、「今日はいい顔」と笑いながら俺の頬を撫で、麻広ちゃんはすぐにぱたぱたと事務室へと駆けて行った。  途中、何人かの学生に声を掛けられ律儀に対応していたみたいだけど、たぶん事務所に戻れば「遅い」と小言を言われるのだろう。職員の中でも比較的若い麻広ちゃんの風当たりは中々に厳しいらしく、お局様からのお小言は愚痴の種のひとつでもある。  それでも、途中で放り出したりせず最後まで話を聞いてくれる麻広ちゃんは学生との関わりが少ないのにやたらと人気があった。   「……いい顔、ね」  少なくとも、佐野と一緒に居る時は真壁のことをあまり思い出しはしなかった。  おかげで、叶わない想いに涙を飲み女々しくひとり孤独にへこむ夜を過ごさずに済んだ。その点はすごく有難いとは思う。  だけど。今度は違う悩みが浮上した。  神谷悠紀、気持ち良ければ誰でもいいのか説。  佐野の手で人生最速で達したうえ、自らも煽りまくって快楽を貪って。そらもういい顔になるくらいスッキリするわ。  時々遊んで発散する程度の、淡白な性欲しかないと思ってたんだけど。どうやら違うらしいと、佐野との行為で思い知らされた。  性に貪欲。  そうだ、世の青少年と何ら変わり無いじゃないか。  誰でも良しでいいじゃないか。だって俺はフリーなんだ。真壁に操を立てる必要もないんだから。気持ち良くなって、何が悪いんだ。  人っ子一人居ない廊下を、誰に向けるでもない闘志をめらめらと燃やしながら歩いていく。次の講義こそ、次の講義こそ遅れずに受けなくてはならない。

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