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 たらふく飲み食いをして店を出た時、麻広ちゃんがこっそりと俺に耳打ちしてきた。 「ふたりを見る目が随分と穏やかで、びっくりした」と。  ――ああ。だから、"何かあったのか"なのか。  妙に納得してしまい、思わず笑ってしまった。そうだな、不思議と、卑屈にも悲しい気持ちにもならなかった。 「麻広ちゃんがうんと泣かせてくれたおかげだよ」 「……そう?」 「うん」  うん。嘘なんかじゃ、ない。  麻広ちゃんが居たから、想いを吐き出させてくれたから、俺は今こうして立っていられる。  大将に貰った飴を取り合う真壁と志摩を見て、笑っていられるんだ。 「ゆうちゃんの役に立ててよかった」 「……ありがとうね、麻広ちゃん」  お酒のせいかどうかはわからないけど、頬の赤みと潤んだ瞳で嬉しそうに笑う麻広ちゃんは、今まで見た女の子の中で一番可愛い。  俺も、こんな風に笑顔ひとつで誰かの気持ちをほんわかと優しいものにできたらいいのに。  ――"誰か"とは誰なのか。どこか遠くで冷静な自分が問い掛けてくるけど、気付かないふりをした。

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