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タクシーに乗った麻広ちゃんを見送り、真壁と志摩にこれからどうするかと尋ねると「帰る」と即答された。
お子ちゃまな志摩はもうおねむの時間らしく、しきりに目を擦っていた。まだ、0時前なのに。
眠たさと酔いのせいで無駄に絡む志摩をまんざらでもない表情で宥める真壁がおかしくて、爆笑してしまった。
顔、でれでれすぎ。
「おとなしく連れて帰れよ」
「えっ神谷はどうすんの?」
「おいおいー、金曜の夜だぞ? 野暮なこと聞くなよ」
志摩の肩を支えてるせいでがら空きだった鳩尾を軽く小突くと、真壁は顔を真っ赤にして「ごめん」と返してきた。一体何を想像したんだ、お前は。
俺が大学の外で遊び回っていることなんかとっくに気付いていたのかな。
変な人には着いていかないこと! とまるで親のように忠告をしていた真壁は、突然ふわりと笑みを浮かべた。
「……最近、神谷とゆっくり話す時間なかったから、今日は楽しかった。無理に押し入ってごめんな」
「いや……」
「あんまり気ぃ張り過ぎたら疲れちゃうぞ。たまには手を抜いてもいいんだよ。話なら、いつでも聞くから」
「――……」
お前が言うのかよ、それを。
前の俺だったら、卑屈になってしまうかもしれない言葉。だけど、今の俺には真壁が心から心配してくれていることがまっすぐに伝わってくるのが、すごく嬉しかった。
「……お前も。そいつばっか気にかけて他を疎かにしねえようにな」
「うっ……それは否定できない」
「だろ?」
くく、と笑いあいながら同時に志摩の顔に視線をやればくっそ間抜けな顔で寝こけている。
俺は、真壁の前じゃこんなブッサイクな面晒せない。いつもかっこつけて、本当の自分を隠して、住む世界が違うのだと勝手に線引きをしていた。
最初から、恋愛ではなかったんだろうなって、今更ながらに思う。
それでも、大切で大切で、手放したくはない存在なのだと強く思う。
「志摩と仲良くやれよ。……本当、良かったな」
今、初めてこいつらの関係を心から祝福できた。幸せそうな、でれでれと顔を緩める真壁を見れて良かったと思えた。
嘘でもその場限りの取り繕いの言葉でもなく、俺の心からの気持ち。幸せであってほしいと、ふたりで笑っていてほしいと、心から思える。
「……ありがとう、神谷!」
うん。この笑顔が見れただけでも、俺は幸せだ。
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