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◆◇◆◇◆
「ぐえっ」
どうにか佐野の家まで辿りついた瞬間、体力の限界を迎えた。
ふたり同時に玄関に倒れ込み、ぜえぜえはあはあと落ち着きない息を漏らす。
元々ビール一杯しか飲んでなかったうえにあの事態だ。そら酔いも冷める。はっきりとした頭で息を吐いて立ち上がり、未だ起き上がれずにいる佐野を置いてキッチンへと向かう。
相変わらず物の少なくてがらんとした佐野の部屋。
7月も終わり間近の今、深夜でもじめじめとした暑さが残っているというのに、この部屋だけはどこか肌寒く感じてしまう。
冷蔵庫開けるぞー、と一応断りはしたものの聞こえているのかいないのか、くぐもった声が聞こえただけでまともな返事とは取れなかった。
構わず開けてミネラルウォーターを取り出すとぐびぐびと飲んで、玄関に転がったままの佐野を振り返る。
……あれ、運んでやらなくちゃだよな。
すごく、嫌だけど。っていうか無理っぽいんだけど。
「おい、佐野ーベッド行けベッド」
「んんん……」
「酒くっさ!!!」
一体どれだけ飲まされたのか、ごろんと寝返りを打った佐野からは尋常じゃないくらいの酒の匂いがした。
ぞぞ……と身震いする。
飲ませて、意識を飛ばして、何をしようとしていたというのかね。
「お前……マジで喰われなくて良かったな……」
「んん」
こんなのトラウマ過ぎる。
あんな肉食獣よろしくな子たちに襲われたって勃つ気がしない。むしろこれだけ飲まされてたら勃つもんも勃たねえだろ。
水でも飲め、と身体を揺すれば眉間に深い皺を刻んで拒否された。思い切り頭振ってやろうかこの酔っ払い。
「……」
ちなみに、繁華街を出てから佐野の家に着くまで。そして、着いてから今の今まで。ずーっと佐野のスマホは鳴りっぱなしだった。
「いい加減うっせえんだよおお!!!」
ブーブーブーブー喧しいったらありゃしない!!!
液晶に穴を開ける勢いでボタンを連打しながら差出人を確認した。
……まあ、予想通りだわな。
さっき佐野を取り囲んでいた子たちのアイコンで埋め尽くされた通知欄に眩暈がした。
明らかに、遊んでいる。一文字ずつ順々にメッセージを送ってひとつの文章を作り上げていたかと思えば、それぞれの写真を貼り付けてきたり。
見れば佐野のスマホの充電は10%を切っていて電源を落とそうが落とすまいが電池切れになるのは時間の問題だ。
少し迷ってリビングのソファに置いて、佐野の元に戻る。
遠ざかってしまったバイブの音は玄関まで届かず、そこには佐野の寝息だけが静かに響いている。
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