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「ちょっとオイタが過ぎるんじゃないかな、神谷くん」 「お、俺もそう思う……」  へへ、と乾いた笑いを返せば、勢いよく腕を引っ張られた。  ふわりと身体が浮き、乱暴な手つきとは裏腹にそっと玄関のドアに押し付けられる。  振り向いて佐野に何事かと問い掛けても返事はないし、捻り上げられた腕が痛くて動けそうにない。  昼の熱を溜め込んだ鉄のドアは微妙にぬるくて、その中途半端さに煽られる。  ドク、ドク、と心臓が痛いくらいに跳ねて佐野の次の動向を待っている。 「ほんっとお前、俺を煽る天才だよ」 「なん、あっ」  濡れてもいないそこに、つぷりと指が挿し入れられた。  性急な動きで俺の弱いとこだけを狙って押し付けてくる指に、しょんぼりしていた俺自身がぐぐっと硬度を増していく。  もう出ないって。もういいんだって。  そう言いたいのに、佐野のいう「えろに素直」な俺の身体は与えられる快感だけを器用に拾い上げ、一直線に高みへ行こうとしている。  確かにあったはずの引き攣れたような痛みは快楽に押し負け、今はただただ気持ちいい。  知らずうちに腰が揺れていたようで、ぺちりと叩かれた。 「いた、なに、」 「ほんとマジ……お前ね……」 「なに、何が」  快感に飲まれた頭では、佐野が放った言葉をうまく処理できない。  引き抜かれた指が前に回って、先のほうをぐりぐりと押さえつけては引っ掻いたりとを繰り返しているから、余計に。  開いたままの口からはしたない唾液と嬌声が漏れ出るけど、構ってなんかいられなかった。  すぐそこまで迫っている高みまで上り詰めたい。今すぐ。    自分でもわかる。"そこ"が、物欲しげにひくついているのが。でも、もうみっともないとか、はしたないとか言ってられない。欲しい。ただ、欲しい。 「佐野、ッ早く……!」 「ッ……ざけんなよマジで」  空いた手が俺の口を塞いだと同時に、佐野が背中に覆いかぶさり熱い猛りが押し付けられた。  待ち望んでいたそれは躊躇なく激しい抽挿を繰り返し、押し上げられる強さに高い声が漏れ出る。こんなところでこんな格好で、こんな声を上げて――何やってるんだろう、俺。  どこか冷静な自分が問い掛けてくるけれど、それよりもずっと強い思いが俺の中にはある。  だって、こいつが――佐野が欲しくてたまらないんだ。  その思いが意味することを考えたいのに、項にかかる佐野の荒い吐息がさせてくれない。  ゆらゆらと視界が揺れ、脳内が痺れていく。  口を塞ぐ佐野の手に縋って、俺は大きく仰け反って果てた。身体の奥に、佐野を感じて。

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