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 どこにいんの。  それだけを打ち込み、佐野のスマホに送りつけた。  返事を待たずにもそもそと着替えをしていると、ふと気付いた。  また、キスマーク。  佐野の執着の証とも言えるそれは前よりもずっと多くて、ひとつひとつをなぞっていくたびにあいつが見せたたくさんの顔が蘇る。  ……疑いようが、ない。あいつは俺のことが好きなんだ。  言葉通り、ずっと前から。  ブブ、とスマホが震え、着信を知らせてくる。  ドクドクと煩い胸を押さえてスマホのロックを解除すれば、予想通り佐野の名前が表示された。  だけど、本文に書いてあったのは―― 『お前が帰るの待ってる』  単調で不機嫌丸出しな文章に、昨夜の不安げな表情が浮かぶ。  急いで着替えを済ませ、鍵を持って部屋を飛び出した。    佐野は、何を考えてるのか判らない。  話してくれないし、嘘ばかりつくし、歪んだ物言いばかりするから悪い方に勘違いしてしまうし。  ――でも、あの顔。  ネットのまとめに載ってあった寂しげな顔と、昨日の不安げな顔。  あれは、本当のお前だよな。  いつだって不安で寂しくて――でも、誰に助けを求めることもできなかったんだよな。    縋るように背中に回った手のぬくもりが、今もまだ残っている気がする。  きっとあれが、あいつの精一杯の甘えだったんだ。助けてくれって、叫びだったんだ。  たっだら、俺がその手を掴んであげなくちゃ。  同情でも妙な使命感でもない。  俺が、いやなんだ。あの顔を、他の誰かに見られるのが。

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