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玄関を開けるなり、ふたり同時に倒れこんだ。
笑いはまだおさまってないうえ、階段を暴れながら駆け上がったせいで言葉を発することができないくらいに呼吸が乱れまくっていた。
「どこ、いたの、お前、」
「向かい側の、カフェ。そこまで、お前の声、聞こえた」
「マジでか」
ぶはっと笑い、寝返りを打って佐野の顔を見つめる。
顔を真っ赤にして、ぜはぜはと荒い呼吸を繰り返す佐野。
なんかもう、色んなことがどうでもよくなった。
そっと手を伸ばして、乱れてしまっている髪を撫でる。
「……なに」
「や、……やっぱ、来てくれたなあって」
汗だくで、髪も服も適当な今の佐野には、いつも女の子が騒いでるようなかっこよさは皆無で。
なのに、不思議とどこの誰よりも輝いてて、かっこよく見えた。
「俺の傍に居んの、耐えられなかった?」
「……」
返事もしないままふいっと視線を逸らされた。
だけど、その喉がぐうっと鳴ったことが、俺の言葉を肯定している。
……ほんとこいつ、図星さされた時の嘘下手過ぎるだろ。
「俺さ、お前相手だとどうも我慢できねえの」
「何を」
「性欲」
余所を向いていた顔がばっと勢いよく帰ってきた。
笑いたい気持ちを頬の裏を噛むことで必死に堪え、戻ってきた青い瞳をじっと見据える。
「最初は、何でかなって思ってたんだよ。今まで、適当な男と適当に遊んで終わり、って感じだったから。あんな風に、全部吹っ飛んじまうことなんて、なかった」
「……」
「だけど……お前の気持ちを聞いて、やっと判った。俺を好きでいてくれる奴に抱かれたことなんて、一度もなかったから。だから、お前に抱かれるのはあんなに気持ち良くて、」
「それって身体だけってことだろ」
俺の言葉を遮った佐野の頭をごすりと殴って「最後まで聞け」と叱りつけると、舌打ちをしやがった。
こんな話すんのなんて初めてだから、どうやって話せばいいのかなんて判るわけないだろばか。
回りくどくて不快になってしまうのは大目に見て欲しい。
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