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 膝の力がカクリと抜けたと同時に抱き留められ、そっと額に額がぶつかった。  痛みはないそれに目を見開いて佐野を見上げれば、はにかんだように頬を赤く染めて笑みを浮かべていた。  なんなの――その、幸せですって顔。 「神谷、ちょっと待って」 「何」 「それ、その顔ずるい」 「何がだよ」 「――幸せだ、って。思ってくれてる顔――ずるい。しにそう」  ぽかんとして佐野の言葉を受け取り、一瞬で顔が熱くなった。  同じことを、考えてる。  それが嬉しくて嬉しくて。でも、妙に照れくさくて。ぎゅっと抱きしめてきた佐野の背に手を回して答えた。  今が一番……幸せなのだ、と。  ドクドクと高鳴ったままの鼓動は、一体いつになれば落ち着くんだろうか。  佐野に触れるたび、佐野が触れるたびにきゅうっと胸が閉めつられて呼吸さえ苦しくなる。  ――なのに、その苦しさが心地よくて嬉しくて、やっぱり手放したくないと思い知る。 「……神谷?」  恥ずかしさなんてとっくになくなってしまっていた俺は一枚ずつ服を脱ぎ捨て、裸足の指先で佐野の足をつつつ……と撫でた。  途端に、その青い瞳に炎が宿った。  俺を苛む、欲情の炎。  消すことができるのは――佐野。お前だけだ。  熱い指先が胸に、腕に、頬に触れ、簡単に俺は煽られていく。    いつだって欲しかった。  ただ真っ直ぐに俺だけを――俺自身を"好きな男"の手は心地も気持ちも良くて、涙で視界が滲んだ。

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