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好きだ。好きだ。――大好きだ。
自分でも気付かないうちに大きく育っていた気持ちは止まることなく溢れ、俺たちの間に落ちていく。
誰かに想われることが、こんなにも嬉しいだなんて、知らなかった。
好きな奴の腕の中が、こんなにも落ち着ける場所だなんて、知らなかった。
「……っ、」
ひょいと抱きかかえられて連れて行かれたのは、佐野の寝室。
何度も身体を重ねてきたのに、なぜか初めてだと錯覚してしまうくらいに緊張してついその首筋にしがみつくように腕を回してしまった。
その時、見たことのない佐野の表情に気付いた。
「……何そのだらしない顔」
「うっせえ」
最初の余裕たっぷりでいじわるな顔は影を潜め、目は血走り気味だし呼吸も浅くて荒いし。誰だお前って感じで。
あれは佐野の精一杯のかっこつけだったんだと察すると同時に同じ状態になっている自分を振り返り、これが俺たちの本当の初めてなのではと思った。
どうしようもなく総てが今更で、だけどそのどうしようもなさすらも愛おしくて。
唇に落ちてきた佐野のそれに、下手なりに必死に応えた。
触れてくる熱が気持ちよくて、同じように感じて欲しいからと自分からも手を伸ばしてあれこれ試みたところ、ぐっと手を掴まれた。
「今日は俺がするからドエロはじっとしてろ」と吐き捨てて。
すでにいつでも限界突破しちゃいそうな息子さんひっさげて何言ってんのこいつ!! ドエロって!!!
盛大に舌打ちをして大の字でベッドに寝転がると、佐野は眉尻を下げた情けない笑みを浮かべた。
「……昨日無理させたから、今日は優しくしようって言ってんだよ」
「やらないって選択肢はないんだな」
「だって我慢できないだろお前」
言いながら下肢をぐりぐりと弄られ、身を捩った。
お前どこまで俺をエロ星人だと思ってんだよ!? と叱りつけようとした言葉は切なげな吐息に変わり、それに佐野が興奮したのが判った。
「お前もドスケベだろ。俺限定で」
「……正解」
ひひ、と互いに笑ってどちらともなく唇をくっつけて。
全然甘くならない関係に言葉だけの嘆きを落として、心の底から安堵した。
ここが、――この腕が、俺の居場所だ。
目尻に零れる涙を舐め取られ、じれったいくらいに丁寧な佐野の指先に笑みを浮かべて酔いしれた。
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