3 / 5

第3幕

「ねー先輩。キメ顔のトコ悪いけど、アイス溶けてるよ」 「うわホントだ」  ボタボタ垂れる俺のソーダ味。右腕を身体から離して左手でポケットを探る。  ティッシュなんてあったかな。  モタモタしてる間に手首の方まで垂れてきた。アイスを食べ終わった瓜生が俺の腕を取って袖をまくり上げる。 「お、サンキュー」 「はーもう……無防備すぎんだよ……」  瓜生は低い声で何か言ったかと思うと、掴んだ腕を持ち上げて俺の手首をベロンと舐めた。  流石にこれはツッコめない。というより──笑って茶化せるノリじゃなかった。 「ごちそーサマ」  固まる俺の腕を離して見下ろした瓜生は、知らない男のような表情で唇を舐めた。  笑っているのに冷たく見える瓜生の視線に背筋がゾクゾクする。 「やっぱ夏はソーダだね。なんでおれサーモン&抹茶にしちゃったんだろー」  あれ?  もう何事もなかったように瓜生が朗らかに笑っている。頭の中が???で埋まった。  妖怪?狸?解離性同一性障害?ドッペルゲンガー???  瓜生が学校に向かって歩き出す。遅れて俺も後を追う。 「先輩、俺とコンビ組もう。ビッグになろうよ」 「……なんの話だよ」 「だぁからお笑いやってこうって。俺達なら獲れるよ天下!」 「まあ獲れるだろうけど」 「否定しないんだ」  なんだ?俺の気のせいだったのか?  あまりに瓜生はいつも通りだ。  ならまあ、俺も普通でいいのかな? 「俺には夢があんだよ」 「先輩の夢、へー。大作家?」 「それもいいな、でも違う。俺は──Jリーグに入りたい!」 「……へぇ……作家じゃなくてサッカー……あ、運営とかそういうの?」 「なに言ってんだよ。選手以外の何に憧れんだよ」 「小学生!?しょうらいのゆめ?──イタイケな先輩の夢壊したくないけど、ソレなれないヤツだ。まず文化部入ってる時点でね。無理だよ先輩。うん。無理」 「どんな夢でも良いだろ夢なんだし」 「夢じゃなくて妄想だよね。目指す気ないよね。だって文化部入ってるもん。カテゴリーが違う、そもそも」 「さっきから偉っそうなんだよ!じゃあお前は夢があんのかよって話だよ」 「俺?俺は──先輩のお嫁さん」  ──ぐっ。このタイミングで絡み辛いネタ寄越しやがって。やっぱ何も考えてねえな、こいつ。 「ふざけんなよ。要らねえよ、俺よりデカイ嫁なんて」 「え?ソコ?そこさえ何とかすれば、なってもいいの?」 「なんで何とかなると思ってんだよ。一番クリア出来ないでしょ!?身長を縮めることは出来ません!」  部室の前まで辿り着いた。部室の扉を横に滑らせると、そこに閻魔大王が立っている。 「──ヒィッ」 「先輩?なんで閉めんの」 「おまえ見なかったのかよ、この向こうに──」  ガラッ──ゴン、ゴン。  開いた扉の向こうからゲンコツが降ってきた。 「痛ーっ。おれ今日3回目……」  瓜生が頭を抑えて呻いている。 「お前らは何で俺よりも遅いんだ、あぁ?」  そこで待ち構えていたのは図書委員長a.k.a.文芸部部長の遥川(はるかわ)先輩だった。 「えっと──」 「それからネタ合わせしながら部室来るなって、いつも言ってるだろ。執筆してる部員も居るんだよ!」  部長の背後から俺達の遣り取りを聞いて、笑い声が聞こえてくる。 「──喜んでるみたいですけど」  俺は部室を指さしてそう言った。 「面白ければそれで良いのか、お前らは」 「はい」 「はい」

ともだちにシェアしよう!