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第5話 オッサン、責任とれよ?
けだるさを感じながらも、俺の意識は浮上しつつあった。
どうやら気絶したらしい、といくらかは冷静な声が頭の中で呟いてくる。
…あの後どうなったんだ?
どうにも気になった俺は、まだ半分沈んでいた頭を無理やり起こして目蓋をこじ開けた。
するとそこには、全裸で煙草をふかす背中。
「おう、起きたか」
「ん。なあ、今何時?」
「夜中の3時ってとこだな。部屋は朝までとっといたから、まだ寝てろ」
背中を向けたままクシャクシャと俺の頭を撫でるオッサンが、なんだかムカつく。
感じた衝動そのままに、俺はオッサンの手をぐっと引いてやった。
こっち向けよ。
そうして振り向いたオッサンからは、葉巻のような、ジタンの苦い匂いがした。
「なあ、オッサン」
「…なんだ?」
「責任、とれよ?」
ゆっくりと見開かれていく目に気を良くした俺は、猫みたいに喉をならして、笑った。
あぁ、こんなオッサンに、”捕まってやる”なんて予想外だったな。
人生ってのは、わかんねーもんだ。
これが、俺の人生一番の転機で、俺とオッサンの軌跡の始まりだった。
《余談》
「そういえばオジサン、お前に聞きたいことがあんだけどよ」
「?なんだよ」
「…成人してるよな?」
「今更かよ…。してるってーの。あと3ヶ月で22になる」
そう言えば、オッサンはほっとしたように表情を緩ませた。
「それがどうかしたのかよ」
「いや~オジサン、正しい大人だから、そういうの大事にしなきゃなんねーのよ」
「あんた、さっきもそれ言ってたな。似合わねー」
「そう言うなって」
フィルターぎりぎりまで吸ったジタンを、灰皿に片すオッサンは苦笑いだ。
そして、なにやら脱ぎ散らかした自分の服をあさり始めたかと思うと、何かを取り出してみせた。
「ワタクシ、こういうものです」
「?…はぁあああ?!」
そこにあった手帳サイズのなにか。
そこには、みごとな旭日章が輝いていた。
「マジかよ…」
「マジです」
「…似合わなすぎだろ…あんた、本当にオマワリサンなわけ?それレプリカじゃねえの?」
「まごうことなき本物ですぅ~。あと、おまわりさんってか、刑事さん」
「ふう~ん…あ、あのチンピラおっぱらった時出してたのって、もしかしてこれか?」
「おう。な、すげーもん持ってんだろ?オジサン」
「うっせえ。一歩間違えたら犯罪者だったくせに」
「実際大丈夫だったじゃねえか。セーフセーフ」
「ったく…おい、さっさと寝るぞ」
やっと煙草を吸い終わったオッサンをベッドに引きずり込んで、俺は目を閉じた。
自分で作り上げた、オッサンの腕の囲いに、俺は満足だ。
そんな俺を見て、オッサンがニヤついてたことなんて、俺は知らない。
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