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第2話 浮かれたデート 2

 そのあとは閉店まで俺の機嫌は絶好調で、いつも厳しい店長も少し驚くくらい売り上げにも貢献した。いつもこうならいいのにとちょっと嫌みなことも言われたが、今日はそんなことはまったく気にならない。  スキップでもしそうな勢いで仕事を終えた俺は、退勤記録をつけてそそくさと店を出た。そして待ち合わせの場所に向かうべく足早に駅へと向かう。  今日は土曜日と言うこともあり街は混雑している。それでも不思議とそんな人波の中でも思う人はすぐに見つかった。俯いて携帯電話を見ている横顔、それを見つけ思わず俺は立ち止まって見惚れてしまう。さらりと風になびく黒髪、すっと通った鼻筋、長いまつげに凜とした黒い瞳。横顔だけ見てもその整った顔立ちがわかる。そしてモデルみたいに手足が長くて、背が高い。  正直言うと俺とは正反対。背が小さくて童顔で、二十五にもなったのにいまだに高校生に間違われる。しかもヤンキーに絡まれることもあるくらい目つきがあまりよくない。金茶色の髪が余計にガラを悪く見せるのだろうか。付き合い始めて二ヶ月、こんな俺の告白をよく受け止めてくれたなと思ってしまうこともある。  相変わらず彼の前を通り過ぎる女の子たちはその姿を振り返っていく。それを見ていると少し悔しさもにじむが、なんだか優越感に似た感情も湧いてくる。そこにいるいい男は自分のものなんだぞと、声にして言いたいくらいだ。まあ、そんなことは大きな声では言えないのだが。でもふいに顔を持ち上げた彼がこちらを向いた。 「大悟さん!」  俺を目に留めた彼はぱっと花が咲いたような笑みを浮かべる。そして立ち止まっている俺に向かい駆け寄ってきた。それと同時に周りの女の子の視線が俺に集まる。けれど俺を見た彼女たちはみんな同じような顔をした。なんだ相手は友達か。そんな言葉を顔に書いて彼女たちは名残惜しげに彼の背中を見つめる。 「悪い、雪。待たせたか?」 「ちっとも待ってないよ。時間通り。仕事お疲れさま」  にこりと微笑んだその顔に思わず頬が熱くなる。何度見てもいい男だ。爽やかな笑顔がまっすぐに自分に向けられているのを見て、ひどく気持ちが浮き立つ。

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