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第3話 浮かれたデート 3

 それとともに頬が緩んで仕方がない。だがそれもどうしようもないことだろう。この男――久住雪近(くずみゆきちか)は、俺が四年も片想いした相手なのだ。ようやく手に入った恋人に浮かれずにはいられない。 「今日はどこに行くの?」 「あー、うん。俺がいつも言ってるBAR。マスターが雪を連れてこいってうるさくてな」 「ふぅん、そうなんだ。楽しみだな」 「でもそこは早めに切り上げてうちに行くぞ」  興味深げな顔をする雪近に俺はあらかじめ釘を刺す。本当ならあんまり連れて行きたくない場所なのだ。けれど彼のことでも色々と相談に乗ってもらった恩がある手前、連れて行かないわけにもいかない。それに出し惜しみしてあとからさらに無理難題を言われてもたまらない。 「雪、なにを言われても適当に流しておけよ」 「わかった、気をつける」  頷いた雪近はやんわり微笑んで隣にある俺の手を握った。彼はいつも人混みの中でも臆面なく触れてくる。それに最初は驚いたが、その手を俺は振りほどくこともできない。気恥ずかしさはあるけど、嬉しさのほうが勝るからだ。 「そういやなにか食べたか?」 「ううん、食べてない。大悟さんもまだだろうし、一緒に食べたかったからね」 「そっか、なにか食べてから行くか?」 「別にいいよ、早く行って早く二人きりになりたいし」  顔を上げた俺に満面の笑みを浮かべて、雪近はさらりと俺を喜ばせるようなことを言う。出会った頃から思っていたけど、本当にとことん自分に正直でまったく飾ったところがない。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。いやなものはいや。  だから一緒にいてすごく信用できる。誤魔化したり、嘘をついたりしないから、その言葉をまるごと飲み込めた。 「あ、雪。ここ」 「え? ここ? 看板出てないんだね」 「ああ、一見さんお断りの店だしな」  足を踏み出す雪近を引き留めたのは、通りの道から少し奥まった場所にある店の前。木製の扉にはOPENのプレートのみ。雪近の言うとおり店の看板は一切出ていない。そこは会員制というわけではないが、人の紹介なしでは断られる店だ。 「へぇ、なんか大人な場所だね」 「いい時間だから、もしかしたら混んでるかも」

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