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第4話 浮かれたデート 4

 扉の前に立ち、腕時計を確認したら二十二時になるところだった。休日は人もよく集まるので、今日もおそらく賑やかだろう。少し重たい扉を引けば、ざわめきを感じた。  足を踏み入れた先は縦に長く伸び、奥行きがある。右手にカウンター、そこを通り過ぎた一番奥のほうには小さなテーブルが二つ。十席あるカウンターの六席は埋まり、奥のテーブルでは五人くらいの集まりが騒がしい。予想通りの人の入りだ。 「よお、大悟。待ってたぞ」  人の多さに尻込みしかけた俺に、すぐさま気づいたのだろうマスターが声を上げた。その声にカウンターにいた客は皆一斉に振り向く。馴染みのある顔ぶれに引くに引けなくなった俺は、仕方なしに大きく扉を開いて足を進めた。 「混んでるな」 「土曜だからな。それより早く来い。席空けて待ってたんだぜ」  カウンターの中でにやりと笑みを浮かべたのは辰巳(たつみ)、この店のマスター。もう四十を過ぎているが、明るい髪色と相まって見た目はそれより三つ四つは若い。広い肩幅にすらりとした背丈、いまも昔もよくモテるという噂だ。  辰巳に勧められるままに一番奥のカウンターに俺は雪近と並んで座る。しかし目の前の視線は明らかに雪近にまっすぐと向けられていて、居心地が悪い気分になった。 「ちょっと、あんまり雪を見るな」 「いいじゃねぇか、減るもんじゃあるまいし」 「いや、なんか減る気がするから」  ニヤニヤと悪い笑みを浮かべる辰巳は落ち着かない俺の様子に目を細める。その視線にはどうからかってやろうか、と言う思惑が感じられて俺は咎めるように目の前の顔を睨んだ。けれど辰巳はどこ吹く風で、俺の視線を受け流した。 「雪近くんだっけ? 俺は辰巳慎二。大悟とは八年くらいの付き合いだ。あんたの話はよく聞いてるよ」 「どうも、初めまして」 「噂に違わず男前だな。大悟は面食いだからな」 「辰巳、あんまり余計なこと言うなよ」  小さく会釈した雪近の前に立ち、辰巳はやたらとにこやかに笑う。そのうさんくさい顔に俺の警戒はますます高まる。辰巳には言われては恥ずかしいことも色々知られているから、正直気が気じゃない。

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