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第5話 浮かれたデート 5

「大悟はビールか? 雪近くんはなに飲む?」 「じゃあ、俺もビールでお願いします」 「あ、俺たちすぐ帰るからな」 「なんだよ、来たばっかりじゃねぇか」  そわそわ落ち着かない俺を見ながら辰巳は肩をすくめて笑う。その笑みにふいと俺は視線をそらした。信用できない相手ではないが、からかわれるのが嫌なのだ。普段の俺は熱しやすくキレやすい。感情が子供みたいだと辰巳に笑われたことがある。それなのに俺は雪近の前では借りてきた猫のように大人しい。五つ年下の彼に大人ぶりたいのだと思う。 「大悟さんここにはよく来るの?」 「んー、そうだな。週一か、週二くらい? 休みの前の日はよく来るな。雪は普段飲みとかは?」 「ゼミの人たちとたまに。でもあんまり行かない」 「そうか。そういやお前は、俺といてもそんなに飲まないもんな」  雪近は明日で二十一歳。去年、誕生日が過ぎた頃に初めて飲みに誘ったが、その時から一杯二杯飲む程度でそれほど好んでいる感じではなかった。俺が飲むのが好きだから付き合ってくれているのかな? と言う程度。 「うん、って言うか。俺は飲むより大悟さんと話をするほうが好きだな」 「あ、えっと、そっか。じゃあ、次は飲みとかより飯を誘うほうがいいな」 「ううん、場所はどこでもいい。大悟さんといられるなら」  思わず見とれそうな笑みを浮かべられて、顔が紅潮するのがわかる。素直でまっすぐな感情が嬉しくて、引き結んだ口がムズムズと緩みそうになってしまう。雪近のこういうところ、ほんとに好きだ。いつだって俺が一つ伝えただけでその何倍も返してくれる。 「今度はもうちょっと落ち着いていられるところな」 「そうだね」  俺の言葉に相づちを打つと、雪近は店の中に視線を移す。縦に伸びるカウンター席にはこちらを物珍しげに見つめる視線がいくつもある。ここに出入りしてからずっと、俺はちゃんとした恋人がいた例しがない。だから初めて連れてくるまともな相手にみんな興味津々なのだ。  それでなくとも雪近は顔がいい。だから目を引くのは致し方ない。辰巳のようにからかってこようとしないだけマシだろう。でもふいに背後に気配を感じて、俺と雪近はほぼ同時に後ろを振り返った。

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