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第8話 予想外の展開 3
テーブルに載っていたグラスはほとんど割れてしまっている。ホウキでかき集められた残骸を見ると申し訳ない気分になった。
新庄たちの性格ははっきり言って最低だが、俺が絡まなければそこまでひどい客ではないのは知っている。もうこれは相性の良し悪しだろうか。
「いい、いい、気にするな。ちょっと待ってろ、片付けたら冷やすものやるから」
「え? あ、雪! 手、大丈夫か?」
辰巳の言葉でようやく気づいた俺は、隣に立つ雪近の右手を掴んだ。あのでかい図体が吹っ飛ぶほどの力だ。怪我でもしていないかと手を見れば、赤くなっているが傷ついてはいなかった。しかし思わずその手をぎゅっと両手で握ってしまう。
「大悟さん、ごめん」
「いいんだ、謝るな。お前が殴ってなかったら俺が殴ってた」
「でも、やり過ぎた。流せって言われてたのに」
「大丈夫だ。俺はスカッとしたし、お前が怒ってくれて嬉しかった」
しゅんとして覇気をなくした雪近の背中をなだめるように叩いてやる。確かに少し驚いたけど、ようやく新庄に一矢報いることができた。それを思えば俺としてはかなり気分がいい。これでしばらくは向こうから絡んでくることもないだろう。
「でもあんまり無茶はするなよ。お前が怪我とかしたら心配だ」
「うん、でも俺は平気だよ」
「お前が腕っ節強いなんて思わなかった。喧嘩とか無縁そうなのに。拳が重くてびっくりした」
昔からどちらかと言えば品行方正なイメージ。思春期特有の反抗期もなくて、すれたところは全然なかった。でもやっぱりもう子供じゃないんだなといまさらながらに実感する。出会った時に比べたら随分と体格もよくなって、男らしさが増した。これからもっと成長していきそうで、ちょっとドキドキしてしまう。
「ほら大悟、これ巻いて拳冷やしてやれ」
「ああ、うん。悪いな」
ぼんやり雪近を見つめていたら、割れ物を片付けた辰巳がタオルに氷を包んだものをくれた。視線に促されてもう一度カウンター席に座ると、俺は隣に座った雪近の右手をそっと握る。赤くなったそこは少し熱を持っていて、労るように優しく氷を押し当ててタオルで包み込んだ。
「腫れたらペンとか持てなくなりそうだな」
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