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第13話 知らなかった素顔 3

「馬鹿だな。俺は、そんなことで雪を嫌いにならないし、離れていったりもしない」 「でも嫌だって、思ったでしょう? こんな俺のこと、嫌だって」 「……ああ、思ったよ。すごい嫌だって思った。ほかの誰かが俺よりも先にお前に触れたんだって思うと、ものすごく嫌だし、かなり悔しい。だけど、雪はちゃんと俺を選んでくれた。だからいまはそれだけでいい。お前のことを好きな俺の気持ち、侮るなよ」 「ごめん、ごめんなさい」 「謝るなよ。俺なんかより、お前のほうが辛い思いをしたな」  こぼれ落ちそうな涙をこらえるその顔がいじらしくて、腕を伸ばして目いっぱい抱きしめた。なだめるように背中を叩いてやったら、あふれた雫がこぼれ落ちていく。嗚咽も漏らさず静かに泣く姿を見ると、胸が締め付けられる思いがする。いままでもこうして泣いてきたのだろうか。  告白をした時、冷静そうな顔をしていたけど、いま考えると心の中は焦りばかりだったんじゃないかと思えた。本当に冷静だったら、時間を置かずに答えを出せていたような気がする。それからゆっくりと片をつけてもよかったはずだ。  それができなかったのは後ろめたさ、後悔があったからだ。してきたことは決して褒められるものではないが、雪近のこの素直さには救われる。自分のしてきたことが間違いであることをちゃんと理解している。 「大悟、お前はすぐなんでもそうやって許しちまうの、よくないんじゃねぇの?」  俺たちの様子をずっと傍で見ていた辰巳が、ふいに呆れたような顔してため息を吐き出した。その顔を横目に見ればひどくもの言いたげだ。でも言いたいことはなんとなくわかっている。 「雪は大丈夫だ。あいつらとは違う」 「お前ねぇ、大丈夫大丈夫って、付き合ってきたやつにいままで何回泣かされてきたんだよ」 「今度は絶対に大丈夫だ! 雪は浮気したりしない」 「そういうのはお前じゃなくて、本人が言うべきだろ」  ワントーン下がったやけに真面目な声。しかしその言葉は正論過ぎて返す言葉が見つからなかった。ぐっと言葉を飲み込んだ俺に、辰巳は目を細める。 「大悟さん、なんの話?」  目線が絡んだまま辰巳と二人黙り込んでしまったが、腕の中の雪近がもぞりと身じろぎをして顔を上げた。抱きしめた状態なので、顔はほんの数センチ先だ。

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