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第14話 知らなかった素顔 4

 それが思いのほか近くて、思わず身を引くように手を離してしまった。  まっすぐにこちらを見つめる瞳に、変に胸が高鳴ってしまう。じわじわと熱が広がり、頬が熱くて仕方がない。 「あ、いや、昔の話」 「昔付き合ってた人がどうしたの?」 「んー、あー、えっと。お前に会う前の話だけど。付き合ったやつが二人いたんだ。それがなんていうか、二人ともちょっと浮気癖があって」  高校の時に付き合っていた男と卒業後に付き合った男。二人とも面食いと辰巳に言われても否定ができないくらいの男前。見た目に惚れてしまった部分も大いにあったが、それでも結構俺たちの付き合いは上手くいっていた。  ただ一年、二年と過ぎた頃に、相手が頻繁にほかの男と寝るようになった。俺自身あんまり束縛されたりするのは好きじゃなかったから、そのことに関してあまり強く言わずにいた。しかしそれが悪循環になり、最後にはどっちが遊びでどっちが本気なのかわからなくなる状態に。 「俺は何回も言ったよな? 浮気はされたほうに非があるんじゃなくて、するほうがクソなんだって。それなのに大悟がなあなあにして相手を許しちまうから駄目なんだ。そういうのがお前の優しさなんだろうが、相手のためにはならない。もちろんお前のためにもな」  一度失敗しているのに二度も同じことを繰り返してしまい、いまみたいにかなり辰巳には怒られた。別れた時は俺のなにが悪かったんだろう、どうしたらよかったんだろうって愚痴って絡んで泣きついて。最後まで辰巳は投げ出さずに話を聞いてくれたが、お前の見る目がないだけだって突き刺さる一言をくれた。でも今回は、雪近は間違いじゃないって思っている。 「あのさ、雪は」 「俺は絶対に浮気なんてしない! 絶対にしないよ!」  辰巳の視線から逃れてチラリと雪近を見れば、言葉を紡ぐ前に食い気味で返事をされた。その勢いに少し気圧されて俺は目を瞬かせてしまったが、目の前の真剣な顔を見たらなんだか笑わずにはいられなかった。 「なんで笑うの?」 「いや、なんか可愛いなぁって思って」 「いまそういう場面?」 「悪い、悪い。雪がそんな風に真剣な顔してくれるのが嬉しかったんだよ。ちょっとさ、知らないお前を見て気持ちがぐらつきそうになったんだけど、雪はやっぱり雪だなって思って。そしたらなんか安心して笑えてきた」

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