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第15話 知らなかった素顔 5

 大丈夫、きっと彼は大丈夫だ。俺の知らない雪近より、俺の知ってる雪近を信じたい。いつだって雪近はまっすぐで素直で、誤魔化したり嘘なんかついたりしない男だ。五年もずっと見てきた。俺は雪近以上の男なんていないと思う。 「俺は雪のこと信じてるよ。お前のことは誰よりも信じてる。お前が嘘をつく人間じゃないのは、よく理解してるつもりだ」 「大悟さん」 「あー、はいはい。わかったよ。もうお前の思うようにしろよ」  思わず頬を染めて見つめ合ってしまった。しかしその甘い空気に耐えかねたのか、辰巳は両手を挙げて肩をすくめる。俺と雪近を見る目は呆れかえったそれだが、もう怒ってはいないようだ。なんだかんだと口うるさいけど、本当に根が優しくて気のいい男だと思う。店にたくさんの人が集まるのが頷ける。 「ただし、また泣かされたらお前の好きなそいつの顔、腫れ上がるくらい殴り飛ばしてやる。覚悟しておけよ」 「絶対そんなことさせない。今度は大丈夫だって確信がある」 「だから、お前が言っても駄目なんだよ」 「絶対にない! 俺はずっと大悟さんだけだ。初めて会った時から、俺のことをちゃんと見てくれた。俺の目線に立って俺のことを考えてくれた。そんな大人は大悟さんだけだった。してしまったことはなかったことにできないけど、俺はこの先二度と大悟さんを裏切らない」  視線を向けた辰巳の顔をまっすぐに見据えて、雪近は力強く言い切った。芯の強い揺るがない瞳。凜々しい横顔を見ながら少し誇らしい気持ちになる。そして雪近の気持ちがずっと自分に向かっていたのを知って嬉しくなった。 「へぇ、そう。じゃあ、信じてやる。あ、今日は二人で俺に酒おごれよ」 「は? なんだよそれ!」 「迷惑料と相談料だ」 「……た、高い酒はやめろよ」 「どうするかなぁ」  ニヤニヤと悪い笑みを浮かべて目を細める辰巳に、財布の中身が心配になった。おびえる俺にわざとらしく高い酒瓶を手に取りながら、どれがいい? なんて聞いてくる。その意地の悪さに冷や汗が出るが、いまも昔も世話になりっぱなしだと思えば、食費を削るのもやむを得ない気持ちになった。

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