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第17話 初めてみたいな気持ち 2

 雪近も大学から近いところにマンションを借りて一人暮らしをしているが、いままで一度も行く機会はなかった。お互い決して遠くない距離感でいたはずだったから、ちょっとそれが不思議なくらいだ。  でもいきなり雪近の部屋になど行くことになったら、それはそれでかなりテンションがおかしなことになっていたかも。きっと落ち着かなくて挙動不審だっただろう。好きな人が寝起きする部屋、言われてみるとちょっと興奮する。 「どうぞ、入って」  駅から徒歩十五分くらい。閑静な住宅街の中にある三階建てのデザイナーズマンション。築年数はちょっと古いが一部屋にリビングダイニングもあってそこそこ広い。入った時はリフォームしたてでかなりお得な物件だった。安月給で払えるギリギリの家賃だが、もう六年は住んでいる。  玄関扉を開けると廊下の先にあるリビングがほのかに明るい。ブラインドの隙間から射し込む月明かりがウォールナットの床を照らしていた。 「なんかすごく落ち着いた雰囲気だね。家具が木目調で揃えてあっておしゃれだ。あ、このソファの色いいね」 「このくすんだイエローが気に入って、コツコツと貯金して買った。ちょっとずつ家具を揃えてようやく馴染んだんだ」 「へぇ、なんかいいなぁ。寝室とリビングを隔ててないし、背の高い家具がないからすっきりして広く見える」  リビングと続き間になっている寝室の戸は、引き込み戸になっているので遮るものがなく開放感がある。一人暮らしだから部屋を個別にして使うことはあまり想定しなかった。だからリビングダイニングも寝室も基本、戸は閉めることがない。 「一人暮らしでこの広さは贅沢だね」 「だろう? 気に入ってるんだ」  部屋の明かりを灯してブラインドカーテンを閉じると、月明かりや外灯の雑多な光がなくなり暖色の落ち着いた空間に変わる。部屋は少し昼間の熱気が残っていたが、つけたエアコンにひんやりと冷やされていく。 「適当に座ってていいぞ。なにか軽く食べるか?」 「んー、そんなにお腹は空いてない。大悟さん、飲むなら飲んでもいいよ」 「じゃあ、つまむくらいでいいか。そうだなぁ、一本だけ」

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