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第18話 初めてみたいな気持ち 3

 すぐ帰ると言ったのに散々付き合わされて、飲むばっかりだと酔うからとなんだかんだで口にした。本当なら家で二人だけの時間を過ごしてご飯とかも食べたかったのだが、まったく遠慮がない辰巳のせいですっかり時間が潰れてしまった。買ってきた缶ビールのうち三本を冷蔵庫にしまうと、一本だけ手にソファに座っている雪近の元へ向かう。 「大悟さん結構強いよね。今日結構飲んだのに、全然変わらないね」 「まあ、でもいつもより飲まされたな」  ローテーブルにナッツの袋を放り、缶のプルタブを片手で開ける。確かに今日は結構飲んだ。でもまだ多少余裕は残っているから、この一本で酔うことはないだろう。それにいまは酔っている場合じゃない。  こうして雪近が家にいるというのに、酔い潰れてはもったいない。せっかく二人っきりなんだから。開けた缶をテーブルに置くと、少し深呼吸するように息を吐く。 「……雪」 「なに?」 「キス、してもいいか?」  肩が触れるほどの距離。視線を向ければまっすぐに目が合う。じっとその目を見つめれば、それはやんわりと嬉しそうに細められた。光を含んだ黒い瞳に誘われるように手を伸ばして、頬を優しく撫でればゆっくりと唇が近づく。視線が数ミリ先で交わりそっと目を閉じた。  柔らかな感触とぬくもりにじわりと胸が熱くなる。ついばむように唇を食んで、甘い香りがする唇に口づけを繰り返しているうちに、吐息の熱が混ざり合った。すると心に火がついたみたいに、目の前のものすべてが欲しくなる。  両手で頬を包んで深く押し入るように口づけた。滑り込ませたものに舌を絡ませれば、雪近は小さく喘ぐように息を漏らす。縋るように伸びてきた手に背中を抱き込まれると、そのまま二人でソファへともつれ込んだ。 「んっ、ん……」 「雪、可愛い」  ほんのり上気した頬、潤んだ瞳。色香を放つ表情に見上げられて、ぞくりとした興奮を覚える。キスをするのは初めてではないが、こんな艶めいた表情を見るのは初めてだ。それだけで気持ちが高ぶってくる。もう一度口づけて、請うように開かれた隙間に忍び込む。唾液が滴るほどに柔らかい粘膜を舐れば、背中を握っている手に力がこもった。

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