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第20話 初めてみたいな気持ち 5

「雪、早く、触りたい」  細められた目がやけに色っぽくて、気持ちを煽られる。でも手を伸ばしたらすり抜けるように離れて行ってしまう。立ち上がった雪近を不満げに見上げてしまった。 「あんまり焦らされると風呂場に乱入するぞ」 「大悟さんのせっかち」 「早く行ってこいよ。待ってるから」  目の前にある手を引き寄せてそっと甲に口づけた。それでも足りなくて、舌で撫でたらぎゅっと手を握られる。チラリと視線を上げて様子を窺えば、切なそうに眉を寄せて顔を赤くしていた。なんだかその顔だけで胸がぎゅんと鷲掴まれて、もどかしいような堪らないような気持ちにさせられる。  本当ならいますぐに押し倒して、裸に剥いて襲いかかりたい気分だ。だけど身体だけじゃなくて心の準備も必要なのだろう。少し不安そうな顔をしている。 「雪、好きだよ」 「うん、俺も大悟さんが好き」  繋いだ手に込められた力の分だけ、愛おしさを込めて指先にキスをした。もう一度見上げたら、ひどく幸せそうな顔をして笑う。その顔を見るとますます触れたくなった。でも手を離してくるりと後ろを向けさせると、背中を両手で押した。 「廊下の手前の扉が脱衣所。タオルとか適当に使っていいから」 「うん、じゃあ、待っててね」  ゆっくりと歩いて行く後ろ姿を見つめて、その姿が見えなくなると両手で顔を覆う。やたらと顔が熱い。自分でも紅潮しているのがわかるくらいだ。  初めてでもないのにこの先の想像をして、心臓が馬鹿みたいに速くなる。ドクドクと響く心音が耳について、余計に緊張してしまう。いっそ酔っ払って自分を誤魔化したくなるが、雪近に触れる初めてが曖昧になるのは嫌だと思い直した。 「やばい、初めての時でもこんなに緊張しなかった」  情けない自分に呆れる。だけどどれほど雪近が好きかを実感した。いままでの恋愛を全部帳消しにできてしまうくらい、好きで、大切にしたくて、この先もずっと傍にいたい。何度も同じ失敗してしまったが、もう繰り返さない。俺はまっすぐに雪近だけを好きでいる。気持ちが離れないようにしっかり捕まえてみせる。  好きな気持ちも、誰かを欲しいと思う気持ちも、なんだかすべてが初めてみたいな感覚がした。

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