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第32話 甘い果実の香り 2

 そして冷蔵庫の中を覗いてそこから瓶を取り出すと、ケトルポットに電源を入れる。  お湯が沸くあいだに瓶の中身をスプーンで掬ってたっぷりとマグカップに落とす。琥珀色をしたそれは粘度が高く、とろりとスプーンに絡みながらカップの底へと溜まった。 「ほら、雪。これ飲んで」  湯を注いで混ぜたマグカップからは甘い香りが漂う。身体を起こしてベッドに座る雪近にそれを手渡せば、不思議そうにマグカップをのぞき込んだ。 「はちみつと大根の擦ったやつ。喉にいいから」 「ん、ありがと」 「接客業だから結構風邪もらって喉やられることも多いんだ。だからいつも作ってんの」 「なんか、痛いのちょっと和らいだ」  カップに息を吹きかけながらちびちびと飲む顔を眺めて、もう一度頬を撫でた。風邪でも引いていないかと思ったが、熱もなさそうだしひどいのは声だけのようだ。それにしても昼間の光の下でも雪近はやけに色っぽく見える。 「あー、これ結構、痕が残りそうだな。悪い」  寝落ちる前に綺麗に身体を拭いてTシャツとハーフパンツを着せてやったが、それでも目につく部分のキスマークがやばいことになっている。首筋や鎖骨の辺りにうっ血の痕がかなり散っていた。襟元の緩いTシャツに指を引っかけてチラリと胸元を覗くと、こちらもだいぶひどい。自分でしたことだが、呆れて頭が痛くなる。 「平気だよ。どうせ今月いっぱい、大学休みだし。俺、そんなに行く用事ないから」 「次からは気をつける」 「いいのに。俺に夢中な大悟さん、好きだよ」 「そういうこと言って、甘やかすな。ほら、立てるか?」  やんわりと目を細めた雪近の口先に唇を寄せると、触れた口元が綺麗な弧を描く。猫のように奔放そうな瞳で見つめられると、やたらと胸が騒いでしまう。空気を誤魔化すように手を差し伸ばせば、それを見透かしたような目をしながら手を重ねてくる。 「わぁ、ご馳走だね」 「昨日ちゃんとした飯食えなかったからな。近所にあるレストランなんだけど、電話して頼んだら持ち帰り用に包んでくれた。お前、さすがに行くのしんどいだろうしな」 「そっか、じゃあ今度連れてってね」 「おう、そのつもりだ」  ダイニングにある二人掛けのテーブルには、パスタとピザとサラダが載っている。盛り付けた皿は安物だが、まだ温かい料理は充分に美味しそうに見えた。

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