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噂話について4

昼休み。小会議室。 普段は来ることのないような部屋の前で、俺は弁当を片手に、鍵が開くのを待っていた。 「遅いな〜」 小会議室は3階、つまり2年生のフロアにある。制服につけるバッチの色によって学年がわかる仕組みになってるから、赤の先輩方からは、なんで緑の1年がなんて思われてるんだろう。視線が痛い。居づらくなって、視界が下に行く。さっさとやって終わらせたいのに。 「ねえ、君。」 「え、あ、はい。」 突如、上の方から声が降ってきたため、反射的に返事をし、顔を見上げる。と、視界が一気に華やかになった。 黒い艶のある髪。形のいい眉。すっと伸びた鼻。微笑を浮かべる唇。 そして何より、凛とした黒い、深い瞳。とても優しくこちらを見ていた。 もしかしてコイツが才色兼備の塊、有川聖か! 「もしかして、君が東峰優也くん?」 「…はい。」 めちゃくちゃいい声。同じ高校生なのか…。てか、同級生なんだよ……な?緑のバッチ見えるし。身長も…180くらいはあるのか?首が地味に痛い。 「僕は有川聖。同じ1年だからそんな固くならないで。」 「あ、うん。」 「吉根先輩に呼ばれたんだよね。入らないの?」 「いや、鍵が空いてないんだよ。だから入れない。」 「あらら。先輩どーしたんだろ」 「まさか忘れてるとかはないだろーな。」 「流石にそれはないでしょ。あったら僕らが困るよ。」 そう言うと有川は、ははっと笑った。その様子は一国の王子のようで。俺はこんなやつと付き合ってることになってるのか……ちょっとすごいな。なんていまさらながらに感動していた。 「なんかごめんな。俺と付き合ってるっていう噂が流れてるみたいで……」 「いいよいいよ。君も被害者でしょ?主に吉根先輩の。」 「毎朝来られると溜まったもんじゃないよな」 「僕には放課後に来るよ。と言っても部活までの間だけだから、東峰のほうが大変かもだけどね。」 「あーもー先輩、どーしたんだろ。お腹減った。」 ぐるるるる こーゆーときに限って素直に鳴る腹め。しかも割と音がでかいぞ。恥ずかしい。 「む………」 「お弁当は立って食べづらいもんね。よかったら僕のパン食べる?実は2個買っちゃたんだよ。」 「えっ…」 「朝コンビニに寄って買ったんだけど、2個買うとお得って書いてあったからつい……。僕そんなに食べないから。」 「あっ、でも…」 ぐるるるる まじ、今日はどうしたんだ俺の腹!素直すぎるだろ!少しは落ち着け! 「どーする?」 「………本当にいいの?」 「もちろん。あ、どっちがいい?焼きそばパンとソーセージパン。」 「じゃあ、焼きそば。」 「ん。はい、どうぞ」 「ありがと。」 周りの包装を破って、パクっとパンにかぶりつく。久しぶりに食べた焼きそばパン。ソースがパンにしみて美味しい。自然と笑顔になってくる。 「うまい」 「ならよかった」 「本当にサンキューな」 「…っ!う、うん」 「あ、じゃあ変わりに弁当のおかずなにかやるよ。何がいい?って言っても何入ってるかわかんねーけど。」 「いいよ。気にしないで」 そういう訳には、と口を開こうとした途端。後ろから何かがものすごい勢いでぶつかってきた。こっちは焼きそばパンを食べてるんだから、少しは遠慮してほしい。 「ごほっごほっ……」 「ちょっとお二人サーン。何二人の世界に入っちゃってるの?」 「吉根先輩、遅かったですね」 「いや〜、ごめんねごめんね。授業伸びるは、購買混んでるは、で大変だったのよ〜。今かぎ開けるねー。」 「はい。…東峰、むせてるけど、平気?」 「……うん。もう平気。ありがとう。」 さっさと終わらせて帰ろう…。俺はそう思いながら、小会議室に入っていった。

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