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噂話について5
こじんまりとした部屋には、楕円形の机とちょっと豪華そうな椅子があるだけだった。まさしく小会議室って感じ。
「座って座って〜」
「はーい」
「失礼します」
俺は吉根先輩の真正面の椅子に腰掛け、あと二口ぐらいで終わりそうなパンを頬張る。
「ゆうやん、リスみたいに食べるね〜」
「もぐもぐ……それ、バカにしてますか?」
「ううん〜。かわいいなーって思って。あっ、ごめんね有川くん。別に今のはそういうのじゃないからねっ」
「…吉根先輩。前々からお伝えしている通り、僕と東峰は付き合ってません。」
「そーですよ!今日、俺は初めて有川と話をしたんですよ?こんなんでも付き合ってるっていうんですか?」
俺は先輩を睨みつけながらそう言った。
こっちはすごい迷惑してるんだよ!さっさと下らない噂話とはおさらばしたいんだ!!
「ん〜〜そう言ってもね〜」
吉根先輩は腕を組んでうなり始めた。とうとうおかしくなったか?って、失礼か。
「君たちはそう主張するけどさ、証拠はあるの?」
「は?」
「付き合ってないっていう証拠。例えこの話が噂話だとしても、」
「例え、じゃないです。ほんっとうに噂話です。」
「ゆうやん、話を最後まで聞いて〜。
…例え噂話だとしても、この学校の大半の生徒がその話を信じているの。そいつら全員に『嘘でしたーデマでしたー』って言ったところで、もう通用しないよ?もとから付き合ってなかったっていう証拠がなきゃね?
一方で、付き合ってる証拠がなくても、勝手に人は勘違いをする。途中で面白おかしな話が混ざって、何が正しいかわからなくなったら、もうおしまい。独り歩きを始めちゃうんだよ。君たちが何をどう言っても無駄無駄。いっそのこと本当に付き合っちゃえば?」
吉根先輩がそこまで話すと、静かにソーセージパンを食べていた有川が口を開いた。
「先輩はそこまでわかっているのに、僕たちが付き合っている、ということにするんですか?」
「とーぜん」
ニヤっと口角を上げた先輩は、いつものおちゃらけた先輩とは違う人みたいで、少し背筋が凍った。
……………が
…………………とはいえ
ふざけるんじゃねーーよ!つまりあれだよな?先輩は俺と有川が付き合ってないことを知ってるのに!付き合っているということにする!!と!!なんで!!ほんっとうにいい迷惑なんだけど!
「なぜそのような事をするんですか?」
「俺を誰だと思ってんの?出版部の副部長だよ??部としてこんな特ダネをみすみすチャラにする訳にはいかないでしょ〜。……あとは、ゆうやん。」
「え、俺?」
「そう、ゆうやん」
「それは、どういうことですか?」
「………内緒」
そう言って吉根先輩は、人差し指を自分の口に押し当て、ニコッと笑ってみせた。そういえばこの先輩もキレーな顔をしてたんだよな。と思ってしまうくらいには、きれいで、何より、やらしい感じがした。
が、
そう思うと同時に俺の怒りのメーターはMAXになってしまった。
「ふっざけんな!散々振り回しといたくせになんだそりゃ!もとから全部知ってたくせにおちょくりやがって!どんだけこっちが迷惑したと思う?毎朝毎朝毎朝毎朝教室に先輩は来るし!クラスメートにはいじられるし!」
「ちょ、ゆうやん」
「東峰、落ち着け」
「落ち着いてられっか!これから楽しい高校生活送れるかなって思ってたんだぞ、俺は!お前ら内部はいいかもしれないけどな、外部は大変なんだよ!なのにこんな噂のせいで俺は……俺は……うっ…」
「ゆうやん、本当にごめんって。泣かないで」
「東峰、一回落ちついて、席につこうか。」
そして俺はとうとう泣いてしまった。高校生にもなって人前で泣くとか……。もう穴があったら入りたい。今すぐに。
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