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千春は見た

黒瀬千春視点  12月中旬、二番目の姉である千波お姉ちゃんが旦那さんと住むための一軒家が完成した為、ついに実家を出た。せっかくだから正月までいたら良かったのに、とお母さんは言っていたけど、千波お姉ちゃんは断った。旦那さんが一刻も早く女だらけの家から出たいみたいと気づいたかららしい。(今までの人もそうだったのに、千波お姉ちゃんは全く気づいてなかったんだよね)  私もこれを機に家を出ようかと考えている。だって、実家にいたら千秋お姉ちゃんがウザいから。最近はしょーたんが無視するからって、すっかり私が愚痴を聞く役割を担っている。それはもうやりたくない。  とはいえ、私みたいな人間が住む家だなんてそうそう見つかるものではない。いっそのこと千秋お姉ちゃんを追い出す──のは絶対無理だし、そうだなあ、しょーたんの家にお世話になろうかなあ。  今日は日曜日。これから向かってみよう。  *  1階ロビーでしょーたんの住む部屋の数字を入力し、チャイムを押す。しかし、反応は無い。  ロビーにいる人に尋ねてみる。 「あの、5階の501号室を訪ねて来たんですけど……」 「ああ、501なら今誰も住んでませんよ? 」 「え!? 」 「私も5階に住んでるんですけどね、たしか12月になってからかしら? 501号室から荷物が運び出されていたんですよ」 「そう、なんですね……」 「ああでも、住んでた人はなぜか見かけるんです。私の思い違いでもしかしたら荷物を整理していただけかもしれません」 「とりあえず待ってみます。ありがとうございました」 「いえ」  その人は立ち去った。私はしょーたんを驚かそうと思い、ロビーにある謎のモニュメント(ちなみにタイトルは『無個性』、しかしどう見てもただデカいだけの棒だ)の影に隠れ、入り口を見る。  しばらくすると、入り口とは反対側のエレベーターから誰かが降りてきた。そちらを見ると、なんとしょーたんと……誰? とりあえずしばらく観察してみよう。 「翔馬さん、本当に行かなきゃいけないんですか? 」 「ああ。寂しいけど、仕方ないだろ。それに、次郎とはあれからずっと会ってないし。心配しなくても久本は来ないし、今日は参加者の大半が次郎や俺の知り合いだ」 「それなら……って、翔馬さんの知り合いってあれですよね? 」 「あー、もう! はっきり言うと、セフレだよ! 安心しろ、全員とは無事に縁が切れてる! 愛してるのはお前だけだってさっきから言ってるじゃないか! 」 「それなら、キス、してください」 「え、ここロビーだし、さっき部屋でも散々──」 「いいから。でなきゃ、信じれません」 「……っ! ──分かった」  しょーたんとその隣の男性はなんとキスをした。しかも、深いやつ。私は真っ赤になりながらもそれから目が離せなくなっていた。 「はあ、はあ……これで、いいだろ……! ──じゃ、そろそろ行くから」 「はい。いってらっしゃい、翔馬さん」  男性はまるでしょーたんの奥さんのようにしょーたんを見送り、踵を返した。……と思ったら。 「そこにいる人、出てきてください。ええと、確か……千波さん、でしたっけ? 」 「……千波は姉で、私は千春。ていうか、バレてたの? 」 「ええ、バレバレです」 「マジか……ていうかあなた、しょーたんの何なの……? 」 「翔馬さんの彼氏です」 「うわあ……マジか……」 「もしかして、そういうのダメな方ですか? 」 「いや、そんなことない。私だって、同性に手出したことあったし……」 「そうですか。それなら良かった。で、何の用でしょうか」 「しょーたんに住む場所の相談をしに来ただけよ」 「へえ。それなら、翔馬さんより俺の方がふさわしいと思いますけど? 」 「え? 」 「こう見えても、俺の父親はこのマンションの管理人なんです。よければ、翔馬さんが住んでいた部屋を譲りますよ。ちなみに今は俺の持ち部屋の一つとなっているので、家賃はいりません」 「い、いいの!? 」  しょーたん、やるじゃない! こんな立派なマンションの管理人の息子ってことは、金持ちだよね? うわあ、嬉しい!  すると、しょーたんの彼氏はあと、と付け加えてきた。 「俺の兄がある会社の社長してるんですけど、よかったら秘書やりません? 翔馬さんのお姉さんってことは、頭はいいんでしょうし」 「あらやだ、そんな褒めないでよ。まあ、確かに大学はきちんと出てるし……お父さんの補佐するつもりで色んな資格持ってるし……。でも、どうして? 」 「……兄、すっごく面倒な性格してるんです。美人秘書じゃなきゃ嫌だ、と最近は言っていて困っていたんです」 「それなら、まさに私がぴったりね! 秘書だなんてやったことないし、楽しそうだわ」 「ありがとうございます。それと、翔馬さんが俺と付き合っているのはご内密にお願いします」 「もちろんよ。ていうか、両親がそれ知ったら多分ぶっ倒れるし、千波お姉ちゃんもそういうのダメな人間だろうし……千秋お姉ちゃんは──そういうのは寛容しているけど、身内にいたらヤダってタイプだから絶対話せない」 「そうですか。──じゃあ、こちらの住所に行って下さい」 「分かった」  しょーたんの彼氏に会社について書かれた紙を渡される。──げえ、マジですんごい会社じゃん!  * 健二視点  翔馬さんのお姉さん3号と別れたあと、すぐに赤坂に連絡をいれた。 「もしもし、赤坂? 」 『……何? 』 「日曜日にごめんね、実は健一さんの秘書候補が今会社に向かってる。だから彼女の案内役をしてほしい」 『はあ? 随分と急ね……でも日曜日だから、健一さんは間違いなくいないわよ』 「それなら健一さんを呼び出したらいい。美人秘書がいるって言ったらきっとすっ飛んでくる」 『──まあ、確かにそれなら彼は間違いなくすっ飛んでくるわね。それに、何だかんだ言って好みは似ているものねえ』 「どういうことだ」 『女性にあまり興味のないあなたが美人って言うんだから、きっと黒瀬先生の血縁者よねと思っただけよ』 「……」 『図星? じゃ、早速健一さんを呼んでくるわね。またね』 「あ、ああ……」  赤坂との電話を切る。幼なじみだからか、やはり赤坂は俺のことをよく分かっている。しかし健一さんと好みが似ているだなんておぞましい。──これは、絶対翔馬さんとは会わせないようにしなければならないな。

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