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「待たせてごめんなさい」
理津がそう言うと、近づいてきた佳孝に力強く抱き寄せられる。
冷たい身体に染み渡るような、佳孝の体温。湯に浸かったばかりなのか、ほんのり石鹸の香りが鼻先を掠めた。
「……冷たいな」
温めようかとするかのように、理津の腕を擦っていく。佳孝の手が薄手の浴衣の上を行き来し、胸を巣食うような寂しさが込み上げる。
「寒い。凄く……」
そう言って肩に埋めていた顔を上げ、佳孝の瞳をじっと見つめた。佳孝は黙ったまま理津の手を引き、すでに布団が敷かれていた次の間へと導いた。
布団にもつれ込み、荒々しく唇を重ね合う。理津は縋り付くように、佳孝の首に腕を回した。
早く早くと、気持ちばかりが先行する。
溢れそうになる涙を飲み込み、必死に舌を絡ませ合う。濡れた舌先の熱。微かに上がった吐息。いっときの幸せに、深く溺れてしまいたかった。
「……あれから殴られたりしてない?」
理津の浴衣の帯を解きつつ、探るように佳孝が訊ねた。
「……おばあちゃんが死んでから、減った」
「そうか。姉さんも、こういう場所に嫁いできたからには、それなりには覚悟はしていただろうけど……理津にあたるのは間違っている」
険しい表情の佳孝に、理津は自ら顔を近づけキスをせがんだ。
今はそんな話はしたくない。自分だけを見て、自分だけの名を呼んでほしかった。甥を気遣う叔父としての顔など、今は必要ない。
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