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「佳孝さん」  名前を呼ぶと、佳孝と目が合った。外からの光に照らされ、ぼんやりと浮かぶ佳孝の白い顔。額に流れている汗。薄っすらと開いている唇は濡れて艷やかだった。 「好き、愛してる」  じっと佳孝の瞳を見つめ、刷り込むように理津は言葉を発する。 「……僕もだ」  唇が重なり、佳孝の表情が隠される。 「佳孝さん……連れて帰って……」  上がった息の合間合間で、理津は佳孝の耳元に唇を寄せて乞う。 「……理津」  諌めるようで、罪悪感があるのか何処か遠慮がちに名を呼ばれる。こんな関係になった以上は、連れて帰ってはくれないことは分かっていた。  でも今は、どんな睦言も甘言も快楽のせいだと許される。 「佳孝さん。いつまでも待ってるから――」  返事はなく、鎖骨の下を強く吸われる。朱い痕がぼんやりと肌に浮かんだ。  意識を失いそうなほどに、何度も突き上げられ、互いを貪りあった。それでも一向に、心は満たされなかった。  事を終えて、二人で白く染まっている中庭をぼんやりと見つめた。  地面は見えないほどに白く染め上げられ、常灯の光が小さく周囲を照らしている。すっかり緑を失った木々からは、雪解けの水が滴っていた。雪は降っていない。  名残惜しさに理津は時計を見上げる。古びた時計の針は、一時を過ぎていた。 「……明日、帰っちゃうんでしょ? 寝なくていいの?」  佳孝の温もりを背に感じつつ、理津はポツリと呟く。温かなぬくもりは貴重な一瞬でしかなく、幸せよりも切なさしかなかった。

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