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「ああ、大丈夫。昼前には出るけど、それまで寝てるさ。それよりも、理津の方こそ寝なくていいのか? 明日も家の手伝いだろう」 「……寝たら、朝が来ちゃうから」 「それはそうだけど……寝なくたって、朝は来るんだよ」  佳孝の子供に言い聞かせるような、笑いを含んだ声。まるで自分だけが、この瞬間を惜しんでいるかのようだった。ガスを吸っているような、胸の苦しさが押し寄せる。 「……寂しくないの?」 「寂しいよ」 「全然、そんなふうには見えない」 「寂しくないはずがないだろう」  前に回されていた腕の力が強まった。 「……雪、止まなきゃ良いのに」  理津は忌々しげに、冷気の漂う窓の外をじっと睨む。 「遅かれ早かれ、いつかは止むんだよ」 「……屁理屈ばっかり」 「大人だからね」  弁解になんかなっていない。佳孝の腕にぎゅっとしがみつき、零れそうになる涙を堪える。 「四年前は……長く降ってた。会う度に、まるでいけないことしてるんだって、罰みたいに雪が早く止む」  四年程前から理津は日常的に、母親から躾と称した暴力を受けていた。  いつものように背中を箒で叩かれ、理津が泣いて謝っているところに、たまたま離れに顔を出した佳孝に発見された。慌てて止めに入った佳孝が「これ以上この子に手を出すなら、うちで引き取る」と言って、理津の腕を引いて自分の部屋まで連れて行ってくれたのだ。  痛みと寒さに震える理津に「姉さんには僕がちゃんと言う」「いつまでも続くようなら、うちで面倒見たって良い」と佳孝は固い口調で言っていた。

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