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sonata11

§・・§・・§・・§ 6月最初の月曜日。 高等部両科合わせての合同会合当日。 放課後になって生徒会室へ行くと、もう既に俺以外の全員は揃っていた。 「遅くなってすみません」 「まだ時間になってないんだから、響ちゃんが謝る事ないって」 副会長席に座っていた棗先輩が、手をヒラヒラと振りながら相変わらずの緩い笑みで迎えてくれた事にホッとする。 後の3人は見事にマイペースで、御厨先輩は応接ソファに座って何やら小難しそうな本を読み、紅林先生は今日の資料なのか顧問用の席に座って数枚の紙を眺めている。 木崎さんに至っては、御厨先輩の向かい側のソファに横になって、 「…寝てる…」 優雅に爆睡していた。 マイペースにも程がある。 「そろそろ出る時間だね。御厨君、木崎君を起こしてあげて」 そんな中、資料から顔を上げた紅林先生が、左手首に嵌めた腕時計を確認して立ち上がる。 去年の会合は音楽棟の生徒会室、要はこの部屋を使って行われたらしく、順番通り今年は一般棟の生徒会室で行われるとの事。 紅林先生の言葉に一瞬だけピクリと片眉を引き上げた御厨先輩だが、手に持っていた本を閉じて横に置くと、立ち上がって木崎さんの元まで歩み寄った。 どんな起こし方をするのか好奇心がうずく。 「木崎、時間だ。起きろ」 「………」 本当に起こす気があるのかと疑問に思うくらいに淡々と言葉を放つ御厨先輩に、俺だけじゃなく紅林先生までもが溜息を吐きだした。 「…御厨君…、さすがにそれだと木崎君は起きないと思うよ?」 俺もそう思う。 けれど、御厨先輩と棗先輩だけは何も言わない。 それどころか、もう用事は済んだとばかりに木崎さんの元を離れて自分の準備に取り掛かる二人。 まさか放置? そう思ったのはやはり俺だけじゃないようで、困ったような笑みを浮かべながら紅林先生が木崎さんに近づいた。 その時。 突然なんの前触れもなく木崎さんの目が開き、ムクリと起きあがった。 「…時間か」 寝起きのせいか僅かに掠れた声で呟き、それ以外は眠気というものを何も感じさせない動作でソファから立ち上がり、出かける準備を開始する。 思わず、紅林先生と目を見合わせた。 …もしかして実は寝てなかったのか? そしてその疑問は、不意に笑いだした棗先輩によって解き明かされる事となった。 「2人とも間抜けな顔してるー。皇志はね、意外と寝起きがいいんだよ。それもちょっと癖があって、声をかけてから1分経たないと起きないの」 「「………」」 変な癖はともかく、寝起きが良いという木崎さんの意外な一面に驚いた俺と紅林先生だった。 それから各々準備を終え、普通科の一般棟へ向かった。 当たり前かもしれないけど、どうやら緊張しているのは俺だけのようで、他の3人はいつもと全く変わらない様子。 とりあえず書記の役割を果たしてくれればいいという事で、仕事的にはなんら問題はないとわかっていても、やっぱりいまだに(何故俺が…)という思いが拭い去れないでいる以上、小さな緊張感は抜けない。 そうこうしている内に、普通科の生徒会室に辿り着いた。 顧問である紅林先生を先頭に、室内へ入っていく。 中から、「お待ちしていました」という誰かの声が聞こえ、木崎さん、棗先輩、御厨先輩が次々と入室していき、そして俺の番になった。 開いた扉から中へ足を踏み入れる。 応接用セットと役員達の机、そして壁際の棚にはその他諸々の資料が収められている。 音楽科の生徒会室と似たり寄ったりの雰囲気だった事で、少しだけ落ち着きを取り戻せた。 「音楽科の皆さんは、そちらのソファーに座って下さい」 耳に入ってきた優しそうな声にフと視線を上げた先、身長は俺より少し高いくらいの茶髪の生徒がいた。 どことなく物腰が柔らかく、穏やかで真面目そうな印象を受ける。 この人が普通科の生徒会長なのか? そう思いながら、促されたソファーに座ったものの、 「申し訳ありませんが、会長は学年主任に呼ばれていて少しだけ遅れます。すぐに来ると思いますので」 その言葉で、彼が会長ではないという事がわかった。 普通科生徒会の顧問は、インテリ眼鏡の如何にも…な風体の教師。そして風紀委員長も同じく、黒ぶちの眼鏡をかけた地味な印象の如何にも…な生徒だった。 俺以外の皆は全員それぞれ面識があるようで、慣れたように挨拶を交わしている。 居心地が悪かったらどうしようかと考えていたが、それは全くの杞憂で終わりそうだ。 やはりトップはそれなりの人物を揃えているせいか、一般の生徒達のようにいがみ合ってはいない様子。 4人掛けソファの一番手前側、御厨先輩の横に座りながら、ようやくホッと肩の力を抜いた。 「会合は穏やかなものだ。安心したか」 「え?」 不意に隣から聞こえた言葉に驚いて振り向くと、表情自体は真顔のまま、でもその瞳の中にどこかしら思いやるような色を乗せた御厨先輩と目が合った。 御厨先輩の意外な言葉と雰囲気に驚いている内に、言うだけ言った本人はそれ以上何かを口にする事なく、すぐに正面を向いてしまう。 …もしかしてこの人、実は優しい人なのか? 感情が無いとまで噂される程厳しいのは、風紀委員長という職務を全うしているからであって、それを抜かせばこの人自体の本質は優しいのかもしれない。 なんとなく、そんな風に思った。 この前の一件で初めて御厨先輩と接したが、もし今日この場にいなかったらそんな事もわからなかったかもしれないと思うと、それだけでここに来たかいがある。 なんてしみじみ考えていると、 「すみません、お待たせしました」 開いた扉から、一人の生徒が室内に入ってきた。 黒髪短髪で高身長、そして武道を嗜んでいるかのような清廉とした空気を持っている人物。 「…え…」

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