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sonata25

§・・§・・§・・§ 翌日の朝。一般生徒にまでは回らなかったけれど、さすがに役員には全ての話が伝わった。 「皇志ーっ! ちょっと落ち着いてよ~!」 「俺は落ち着いてる」 「嘘つき~! そんな鬼みたいな顔してどこが落ちついてるのさっ」 始業前の生徒会室にいた木崎と棗のところに、顧問である紅林が昨日の事を告げに来た。 その紅林が職員室へと去った後。 ……生徒会室は修羅場と化した。 無表情で立ち尽くしていた木崎が、突然近くにある役員机をその長い足で蹴り飛ばしたのだ。 ガタン!!と音を立てて横に動いてしまった机を直した棗が次に見たものは、無表情のままの木崎が生徒会室を出ようとしている姿。 これにはさすがの棗も顔を引き攣らせた。 猛ダッシュして木崎に走り寄り、背後から羽交い絞めにする。 「殺人が起きる! 絶対に殺人が起きちゃうから外に出ないで!」 「…お前、殺されたいのか」 「嘘っ、殺されるのって僕!?」 振り向いた木崎の瞳には、まるで氷のように凍てつく冷たさが浮かんでいた。 このまま生徒会室の外に出したら絶対に誰かが殺される! と焦った棗だったが、確かによく考えれば、この状況でいちばん木崎の邪魔をしているのは自分だ。 額からタラタラと冷や汗が落ちるような幻覚に襲われる。 それでも木崎の体から腕を離す訳にはいかない。本当にヤバイ。 「い、いいからとにかく一回座ろうよ! 犯人はもう昨日の時点で捕まって処分も決定してるし、響ちゃんも怪我っていう怪我をした訳じゃないって言うし!」 棗のその必死な言葉に何か感じる物があったのか、暫く黙っていた木崎は短く舌打ちをし、拘束している棗の腕を引き剥がして応接用のソファへと向かった。 それまで背後にくっついていた棗は、途端に魂が抜け出そうなくらいの安堵の溜息を零し、ドサリと身を投げ出すようにソファへ座った木崎の向かい側に腰を下ろした。 真正面から向けられる棗の真剣な眼差しに観念したのか、木崎の口からは嘆息が零れ出る。 そして疲れた様子で前髪をグシャリとかき上げ、自嘲するような表情を浮かべて口を開いた。 「…アイツがこんな目に合ったのは、どう考えても俺のせいだろ。くだらねぇと思ってた妬みがそこまでのものだったなんて、…クソッ!」 髪をかき上げた手を握りしめ、その拳でソファの背もたれを力任せに殴りつける。 「それも、響也が上位にいるのが気に入らないって? アイツがどれだけ努力してると思ってんだ、ふざけるな!!」 「…皇志…」 棗には、木崎の胸の苛立ちが痛い程よくわかった。 つい先日、響也への想いを自覚した木崎は、それまでの数日間に自分がとった行動を深く悔やんでいた。 その矢先の事件。 木崎は、自分が響也を突き離すようなあんな子供っぽい真似をしなければ、こんな事にはならなかったと思っているのだろう。 あの二年生の2人が言った言葉。 『会長に見捨てられた湊になら、何をしてもいいと思った』 彼らは最後、学院長達の前でそう呟いたらしい。 それは裏を返せば、木崎があんな行動を取らなければ…――いつもの様子であれば、抑止力が働いていて響也を襲おうなんて思わなかったという事。 木崎のお気に入りから外れたのなら今までの妬みを全てぶつけてやろう…、なんて事にはならなかったはずだ。 そんな木崎の心の内がわかるだけに、棗はどうにもやりきれなかった。 ここで、“皇志のせいじゃない、悪いのは響ちゃんを傷つけようとした彼らだ”と言っても、例えそれが事実だとしても、木崎自身は納得出来ないだろう。 だから、何も言えなかった。 「…………」 沈黙したまま俯いている木崎が、どんな顔をしているのかわからない。 棗はただ一言、 「響ちゃんは、こんな事で潰れる子じゃない。大丈夫だよ」 そう言う事しか出来なかった。

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