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canon27
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夏休みが明けてからというもの、明らかに自分を避けているだろうと思われる親友木崎皇志の様子を思い出し、棗彼方は一人、生徒会室で溜息を吐き出した。
ハッキリとした原因はわからずとも、要因の1つが二条志摩だという事は間違いない。
あの皇志が、あぁいう子を傍に張り付かせてそれを嫌がっていないなんて、今までならありえない事だ。
理由を聞きたくとも、科が違えば教室も違い、今や生徒会室でも仕事の事以外は一切口を開かない皇志に何を聞けるというのか。
こうなったら、残るは1つ。
当人である二条志摩に聞くしかない。
そう決めると、だいぶ暗くなった外の景色に一度目を向けながら生徒会室を後にした。
早い者はもう夕食をとる時間とあって、寮棟内は幾分かざわめいていた。
生徒会顧問の紅林と話をすると言っていた皇志は、まだ職員室にいるだろう。
という事は、二条志摩は一人だ。
友人と一緒だとしても、呼び出せばいい。
こういう言い方は良くないかもしれないけど、僕が呼び出せば必ずあの子はついてくる。親しくはなくとも、彼がそういう人間だという事は知っている。
とにかく、皇志と一緒ではない時に話をしなければ意味がない。
チャンスは今。これを逃したら、いつになるかわからない。
周囲からの色々な視線を無視して、まずは食堂へ向かった。
その矢先。
「見~つけた」
棗の数メートル先に、探していた人物の後ろ姿を発見。
二条よりも背の高い人物が二人、その両側についている。たぶん、二条の事を気に入っている取り巻きだろう。
…もしくは、セフレ…かな。
他の人間にはわからない程度に、棗の唇が笑みを刻む。
「二条君。ちょっといいかな?」
背後へと近付き、友好的に声をかける。
一瞬面倒臭そうに振り返った二条だったが、そこにいるのが音楽科副会長で、木崎と同等の人気を誇る棗彼方だとわかった途端に、天使のような笑顔を浮かべた。
「あ、棗君。どうしたの?」
「二人だけで話がしたいんだけど、いいかな?」
にっこり笑って言えば、二条はすぐに落ちた。
「もちろん!」
何を期待しているのか、瞳がキラキラと輝いている。
皇志と付き合っているというのに、少しでもステイタスのある人間が話しかければこうやってすぐに尻尾を振る。
棗が一番嫌いなタイプの人間。
もちろんそれは棗だけではなく、木崎皇志も同じ事。
…それなのに…。
脳裏に浮かんだ疑問は、とりあえず今は隅においやった。
どうせ数分後には全てがわかるのだから。
「他の人間に邪魔されずに話をしたいから、そこの備品室に来てもらってもいい?」
「うん!ボクも邪魔されたくないから、そこでいいよ」
指定したのは、予備的な寝具やその他諸々が置いてある10畳程の備品室。そこなら、何かがない限り人が来る事はない。
とても嬉しそうな二条は、それまで一緒にいた取り巻き二人に「じゃあね」と一言言い残すと、すぐに後をついてきた。
寮棟一階の一番奥にある備品室。そのドアを開けて中に入り、電気を点けた。
廊下の奥という事もあり静かだ。密会をするにはうってつけの場所。
棗に続いて部屋に入った二条も、あまり来る事はない部屋だからか、物珍しそうに室内を見渡している。
「ねぇ、二条君」
「ん?なに?」
「本当に皇志と付き合ってるの?」
「…え?」
単刀直入、向き合い様に尋ねると、二条は一瞬瞳を揺らした。明らかに動揺した証拠。
だがさすがとでも言おうか、すぐに動揺から立ち直るとまるで何事もなかったように、
「棗君も知ってたんだ?…恥ずかしいな…」
そう言って顔を赤く染めた。
普通の人間なら信じたかもしれない。でも、最初から疑惑の目で見ている僕にそれは通じない。
「そっか、残念だな~。僕、本当は二条君の事ちょっといいなって思ってたのに、皇志と付き合ってるなら手が出せないね」
最後に「本当に残念だ」と呟くと、二条の目付きがスッと変わった。
どうやら食い付いたようだ。
「…あの、それって、どういう事?」
「だから、今言った通り。もし皇志と付き合ってるって言うのが単なる噂だったなら、僕と仲良くなってほしいなって思ってたけど、本当に付き合ってるなら諦めなきゃな、って」
首を緩く横に振って溜息を吐きだす。
そして、もう話はついたとばかりに歩き出した。が
「ちょっと待って!棗君!」
二条に腕を掴まれた。
見下ろせば、それまでの逡巡を捨て去った後の、二条本来のふてぶてしい表情が浮かんでいる。
「…どうしたの?」
「あの…、棗君だから言うけど…、本当はボク達、名ばかりの恋人なんだ…。恋人って言うのは名目だけで、木崎君はボクの事を抱きしめる事すらしてくれない…」
「それはどういう事?」
「実は…」
そこから二条が口にしたのは、棗が想像したものよりももっと事態の良くない内容だった。
…まさか真弓さんが絡んでいたとは…。
何度か会った事がある皇志の母親を思い出して、思わず眉を顰めた。
あの人が出てきてしまったのなら、これはもう僕が手を出せる事じゃない。皇志が自分でなんとかしなければいけない事だ。
もどかしいけれど、手を出してはいけない領域。
それに、真弓さん絡みでこうなったのなら、皇志は絶対にそのままにはしないはず。
皇志が本当に響ちゃんの事を想っているのなら、絶対になんとかするはずだ。
全ての道筋が繋がり、そこで棗は溜息を吐きだした。
…なんて厄介な…。
「それは大変だね。二条君も辛いでしょ」
「うん…、でも、真弓さんには言ってないけど、ボクは木崎君の事が好きだから、近付くチャンスだと思って話に乗ったんだ。………それに、アイツの事大嫌いだし…。でも、木崎君は二人っきりになると凄く冷たくて…」
まるで同情を乞うように、上目使いで見上げてくる二条、。
そのあからさまな艶を帯びた目付きに、苛立ちが込み上げてきた。
「だから、もし棗君がそれでも良ければ、ボク…、棗君と…」
「本当に残念だよ、二条君」
「…え?」
「僕はね、そうやって誰にでも媚を売る尻軽な子は嫌いなんだ」
「なっ?!」
突如として冷たい双眸を向けた棗に、二条が固まって目を見開いた。
それまでの甘い空気は、白々しい冷たさへと変わる。
「ごめんね。二条君はもっと純粋な子だと思っていたのに、一気に冷めちゃったよ。じゃあね」
固まったままの二条の横を通り抜けて、今度こそ備品室を後にした棗。
今も苦しんでいるだろう二人の姿を思い浮かべて、もう一度深い溜息を吐きだした。
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