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canon43

§・・§・・§・・§ 校内で木崎さんと擦れ違う事もなく、心も穏やかで平穏を取り戻したはずなのに、眠れない日が1~2日置きにやってくる。 こんな時は無理に眠ろうとすると余計に辛い。 ベッドから身を起こしてカーテンの隙間から外を見てみると、綺麗な満月が見えた。 夜なのに景色がハッキリ見えるほど、白く煌々と輝いている月。 「…外、行ってみようか…」 言葉にした途端、そうするのが一番良いような気がしてくるから不思議だ。 “月の光に誘い出される” そんな一文が頭に浮かぶ。 掴んでいたカーテンから手を離し、外に出る為の身支度を始めた。 「涼しい…」 何も考える事なく勝手に足が動いた先は、慣れ親しんだ中庭だった。 上にパーカーを着てきて良かった。誰もいない夜の中庭はどことなく肌寒い。 近付くにつれ、噴水の水音が聞こえてくる。それに耳を傾けながら垣根を曲がった瞬間、上げそうになった声をグッと飲み込んでその場に立ち尽くした。 こんな時間、誰もいないと思っていたのに、黒い人影が噴水前にある。 見間違えかと目を凝らしても、やはりそれはしっかりと人の姿だった。 噴水を見ているようで、こちらに背を向けているからどんな人物なのかもわからない。 気付かれないうちにここから去った方がいいのか、もしくは、同じ夜の散歩仲間として挨拶をした方がいいのか。 そんな逡巡に戸惑っているうち、ある事に気が付いた。 よくよく見てみれば、満月の光に照らされている相手の髪の色が、 …銀にも見える…白金色…。 途端にドクンと心臓が音をたてた。 この学校内で、ここまで綺麗なプラチナブロンドの髪を持っている人物を、俺は一人しか知らない。 …なんで…、どうして…。 パニックに襲われて叫びそうになる口元を、急ぎ片手で押さえつけた。でも一瞬遅く、小さな呻き声は外に洩れてしまう。 物音とは違い、人の声は小さくとも耳に入りやすい。 案の定、ハッとした様子で木崎さんがこっちを振り返った。 最初は俺が誰かわからなかったらしい。でも、月明かりを正面から浴びている俺の顔は、目を凝らせばじゅうぶんに判別出来る状況で…。 「………響也…」 俺を認めて瞠目した木崎さんは、次の瞬間フラリと体勢を崩した。 これに驚かない訳がない。パニックもそっちのけで、木崎さんに向かって走りだす。 「木崎さん!」 地面に片膝を着き、噴水の縁に片手を置いて体を支えている木崎さんの前にしゃがみ込んで肩に手を置くと、その手の下でビクリと体を震わせたのがわかった。 間近で顔を覗き込めば、気のせいなんかじゃなく木崎さんの顔からは血の気が失せていて、最後に会った時よりだいぶ憔悴している様子が窺える。 「…木崎さん…、どこか体の調子が…」 もっと顔をよく見ようとしたけれど、それは叶わず…。 いきなり背に回された木崎さんの両腕。 今にも意識を失いそうな様相とは裏腹の物凄い力で抱き締められた。 「…木崎…さん?」 何が起きているのか、わからない。 なんで木崎さんが俺を抱きしめるのか、わからない。 顔を見たくもないほど嫌われているはずなのに…。 …どうして…。なんで…。 だが、茫然としていられたのはほんの数秒。 俺の事を抱きしめていた両腕から力が抜け、それがスルリと下へ落ちる。と同時に木崎さんの体からも力が抜けた。 崩れ落ちないように、今度は俺が木崎さんを抱きしめて体にもたれかけさせる。俺よりも大きな体なのに、弱り切っているその姿がやけに頼りなく感じて胸が詰まった。 「木崎さんっ?大丈夫ですか!?」 「…悪い…。お前の顔見たら、なんか力が抜けた」 「…え?」 未だかつて聞いた事がないほど弱々しい声に、心を抉られる。こんなにまで弱っている木崎さんなんて、俺は知らない。 何があったんだ。どうしてこんなに…。 居ても立ってもいられないもどかしさが、胸の奥から溢れるようにこみ上げてくる。 「…木崎さん、部屋に戻りましょう。俺が連れて行きますから」 「……あぁ…」 声をかけると、フラつきながらも木崎さんが立ちあがった。腕を肩にまわさせて、出来る限り俺に体重がかかるように体勢を立て直す。 そして、ゆっくりとした歩みで木崎さんの寮部屋へ向かった。

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