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fantasia8

特に、木崎と柳の間から放たれるオーラの黒さは半端ではない。 そんな2人を横目に、御厨は内心(やっぱりやらかしてくれたか…)と痛むこめかみを堪えていた。 先日響也にも告げた事だが、ここ最近の柳の表情には、どこか何かを決意したような潔さが見え隠れしていた。 絶対に良からぬ事を考えている…とは思ったが、まさかこういう決意だったとは。 無表情の御厨から何かを感じ取ったのか、それまでイヤ~な顔で御厨を見ていた棗が不意にその表情を改めた。 「脩平」 「なんだ」 「柳先輩のアレ、本気だよね?」 「冗談を言っているように見えるのか?」 「…………だよね…」 御厨からの返答を聞いて、がっくりと肩を落とす棗。 誰がライバルでもイヤだけれど、その中でも柳だけは特別に厄介だ。どういう行動を取るのか予測が全くつかないのだから、始末に負えない。 っていうかなんでそこまで響ちゃんを気に入ったのか意味が分からない。 「もういいからさ~、柳先輩連れて帰ってくれない?」 「なんで私がそんな事をしなければならないんだ」 「だって柳先輩って脩平の先輩でしょー。後輩なんだから面倒見てよ。勝手にうろつかせないでほしい」 「徘徊老人の扱いはよせ」 窘めの言葉を口にした御厨だが、それでも棗の懇願を聞き届けてくれるらしく、唐突に柳の襟首を後ろから引っ掴んだ。 「そろそろSHRが始まる時間です。遅刻は認めません。行きますよ」 「あ、脩平、僕まだ木崎と話してる途中やさかい、邪魔せ、」 「行きますよ」 「………」 「………」 柳の襟首を掴んで容赦なく去っていく御厨と、フラフラと引き摺られていく柳。 いくらなんでもその扱いは酷いだろ…、と、残された二人が呆れの溜息を吐いたのは仕方のない事。 柳達の姿が廊下の角を曲がって消えた瞬間、校内に鳴り響いた予鈴のチャイム。 自分達も教室へ…と、妙な疲れを感じながら動きだした二人。 室内へ入る直前、何気なく振り向いた棗の瞳に映ったのは、同じく室内へ入っていく木崎の鋭く真剣な表情だった。 コンテスト出場者の名前が公開されたその日は、いつにも増して校内がざわめいていた。 それは、昼休みになっても変わらない。 「湊、頑張れよ。楽しみにしてるから」 「筒井…。ありがとう、頑張るよ」 いつも同じグループレッスンを受けている筒井が、わざわざ席まで来て言葉をかけてくれた。 朝は朝で、都築からも応援の言葉をもらった。 なんだか妙に照れくさい。 てっきり都築もコンテストに出るのかと思っていたけれど、今回は受けるつもりはなかったようで、参加テスト自体も受けていなかったらしい。 ただ、校内の様々な情報を手に入れている都築から 「気を付けろよ」 そう言われた言葉が、まるで小さな刺のように心に刺さって抜けない。 都築がそう言うって事は、何か引っかかる事があるという事。 冗談や適当で俺を不安にさせる奴じゃないって事は、よくわかっている。 だからこそ、対象の定まらない警戒心が募っていく。何に気を付ければいいのか…。 考える事が多すぎて行き場のなくなった感情を溜息と共に吐きだすと、脳裏に思い浮かぶのは木崎さんとの事。 優勝、もしくは準優勝出来なければ、もう二度と木崎さんと関わる事が出来なくなってしまう。 絶対に取ってみせるという思いはあるけれど、コンテストは魔物だ。何が起こるかわからない。 昨日の夜、木崎さんと話した時にお互いに決めた事。 人生をかける為のコンテストに、1ミリたりとも妥協は出来ない。だから、コンテスト当日までは会わないようにしよう…と。 次に会った時。それが最後の顔合わせになるのか、それとも未来へ向けての顔合わせになるのか…。 考えるだけで胃がキリキリと痛みだす。 このコンテスト結果が、これから先の人生に向かう大きな岐路の始発点となるのは間違いない。 悔いだけは残したくない。絶対に。 クッと息を詰めて拳を握りしめたところで、午後の授業が始まる予鈴が鳴り響いた。

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