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―epilogue―

響也達がドイツに旅立って3ヶ月。 奏華学院の生徒会室は、新入生を迎えた慌ただしさから戦場のような様相を呈していた。 「都築会長。この資料にまだ印が無いんですけど」 「あぁ、まだそれは見てない。そこに置いといてくれ、鬼原」 都築の言葉に大きく頷いた鬼原は、今度は次の資料を書記に渡して何やら指示を出している。 響也は知らなかったが、木崎は自分の後釜に都築を、棗は鬼原を、そして御厨は自分の友人を指名してドイツに旅立っていた。 この場合、指名された者に拒否権は無いという事で、都築は眉間の皺を深くしながら、そして鬼原は顔を真っ赤にしながら、それぞれ会長・副会長となっていた。 3ヶ月後に響也が戻って来た時、たぶん自分達を見て驚くだろうと都築は思っている。 どうせなら、戻ってきた響也を補佐として使ってやろうとも考えていた。 そんな計画を立てている都築の顔は、思いのほか悪人面となっていたらしい。離れた場所から鬼原の「怖い」という呟きが聞こえてきた。 それを耳にしながらフっと笑った都築は、少しだけ想いを馳せる。 過去の優勝者達の中には、半年の留学を終え、ドイツの学校に籍を置いたまま一度戻ってきて、奏華を卒業したらまたドイツへ戻る生徒もいる。 たぶん、響也はそうするだろう…と。 離れてみて初めてわかった事だけれど、自分は思っていた以上にあの友人の事を気に入っていたようだ。 あまり親しい友人を作って来なかったはずの過去を思い出しては、くすぐったい思いにとらわれる。 とにかく、アイツの今後が楽しみだ。 都築の顔は、自然と優しい笑みに移り変わった。 離れた場所から、書記の「副会長?なに顔赤くしてんの」なんて声が聞こえてくる。 奏華学院音楽科の生徒会室は、今日も変わらず慌ただしさと明るさに彩られていた。 ―END―

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