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「どこもかしこも美しいな」
目の前に広がる光景に風間は思わず感嘆の声をもらしていた。
両邸から放射線状に石畳の渡り廊下が伸び、庭園や人工池などを挟みながら六角形の小さな建物が点在している。
『蜂巣 』と呼ばれるその小さな建物一つ一つは個室となっていて、客と男娼が一晩を共にするための場所になっているらしい。
蜂蜜色の屋根をしたその建物が寸分の狂いもなく並ぶ姿は、多数の六角注状の単房からなる蜂の巣そのものだった。
世界中の美しい風景絵画や彫刻等を目にしてきた風間の目にもそれは圧巻の風景で、この場所をスケッチできたらどんなにいいだろうと思ってしまう。
「本日お通しする蜂巣は洋風となっております」
不気味な怪士の面を付けた男衆に案内され、風間はその蜂巣の一室に通された。
「ごゆっくりお楽しみください」
入り口を開いた男衆が恭しく頭を下げる。
風間はゴクリと唾を飲み込むと浮世離れした世界への一歩を踏み出した。
部屋に入ると、まずその内装の美しさに目を奪われた。
安いビジネスホテルしか知らない風間にとって、洗練された無駄のない内装さえも芸術的に見えた。
しかし、次に目に飛び込んできた光景に風間の目は大きく見開かれる。
「待って……っ苺 ……っもうお客様が来るってば」
「大丈夫だって言ってるだろ。ほら、もっと奥まで挿れてやるから足閉じるなって」
粘着質な音と鼻から抜けるような甘ったるい声が風間の耳から頭を撃ち抜いた。
室内の大半を占めているようなキングサイズのベッドの上で、人と人とがもつれあっている。
細かく言うと、下半身を晒した青年がよつん這いになっていて、もう一人がその尻の狭間を覗き込みながらそこに何かを埋めていた。
「ほら、あと三つだ。しっかり咥えろよ菖蒲 」
後ろにいる一人が菖蒲と呼んだよつん這いの子の後孔に、持っていた何かをずぷりずぷりと埋め込んでいく。
丸い玉が連なったそれは経験の乏しい風間の目にも明らかに淫具だとわかった。
「…あっひぃっ……いちごの…っばかあぁ」
菖蒲と呼ばれた青年の中に最後の玉が埋められた瞬間、彼は濡れた悲鳴を上げながら背中を思いきりしならせた。
女物の着物を着た菖蒲という子を見て何故すぐに男だとわかったのかというと、彼の股間には男のシンボルがあり、雄である事をしっかりと主張していたからだ。
しかも菖蒲は挿入の衝撃からか、その屹立から白い精液を大量にぶちまけた。
「もうイったの?菖蒲最近感度良すぎじゃね?もっと我慢しないと長く楽しめないだろ」
「苺だって……あんっ…すぐにイく、くせにぃ…」
絶頂の余韻に腰をくねらせて悶える菖蒲の背後で、苺と呼ばれた子が酷薄な笑みを浮かべながら淫具を持つ手首をぐりぐりと捻っている。
男同士のセックスで後孔を使うことは何とはなしに理解はしていたが、実際そこに何かが埋まる様を見るのは初めてだった。
あんなに拡がるものなのか……
本来ならそこは排泄器官であるはずなのに、菖蒲のそこはまるで女の生殖器のようにいやらしく淫具を咥え込みヒクヒクと戦慄いている。
しかもよく見ると、二人は瓜二つだった。
着物の色や身に付けているアクセサリー等の細かい部分は違えど、幼さを残しつつも美しく端正な顔立ちはそっくりだ。
まさか双子同士で愛し合っているのか?
風間は目の前で繰り広げられる濃厚で濃密な光景に困惑した。
凄まじい背徳感と禁忌感。
しかし、何故だか不思議と嫌悪は感じない。
しかも風間はこの美しい二人をどこかで見た事があるような気がした。
「「あ………」」
いつのまにか彼らが風間の存在に気づいて行為を止めたままこちらを見ていた。
風間の額から汗が一筋流れ落ちる。
背中から冷や汗が吹き出し、何故だか逃げ出したくなってしまった。
「だから言ったじゃないか。苺のばか!」
「うるさいなぁ、色々手間が省けていいだろ」
「また楼主 に叱られたら今度こそ苺だけ座敷牢行きにしてもらうからね」
「はぁ?座敷牢に行きたいのは菖蒲 だろ?どMのくせに」
苺は悪態を吐きながら菖蒲の後孔を犯していた淫具を思いきり引き抜いた。
「やっ…ああぁああんっっ」
紅い襞を捲り上げんばかりに押し広げながら、菖蒲の後孔から次々と濡れた玉が飛び出してくる。
「イく……っ…イく…っああぁああっ……!」
不意打ちの行為に菖蒲は取り乱したように頭を振り、ガクガクと腰を揺らした。
ぶちゅん、と音がして連なった最後の玉が飛び出した瞬間、菖蒲はいきり立ったものから再び快楽の液を吐き出した。
凄まじい光景と水音と菖蒲の叫び声に宛てられて風間の股間も痛いほど張り詰めていく。
菖蒲が力なくベッドに崩れると、引き抜いた淫具をベッド下に投げ捨てた苺が風間に近づいてきた。
自分より頭一つ分低い苺は、風間を見上げると勝ち気そうな瞳をスッと細めて笑う。
「いらっしゃいませ風間様、お待ちしておりました。俺は苺、で、あっちでへばってるのが菖蒲。今日は俺たちと沢山楽しみましょうね」
早速上着に手を掛けてくる苺に風間は慌てた。
今日の目的はモテる処世術を学ぶためであり、セックスをするつもりは全くなかったからだ。
確かに彼らの一連の行為を目にして、スーツの下は硬くなっている。
しかし、これ以上刺激しなければ何とか治める事ができるはずだ。
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