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第3話 bright colors

「チッチッチッチッバリチッチ。」 「ちょっと待て!何それ⁉︎」 「は?バリチッチ。」 「バリチッチッ⁉︎え⁉︎『いっせーの』じゃねーの⁉︎」 「俺んとこ『うー』だったけど。」 「うー⁉︎普通『いっせーの』だろ!」 「マジか。」 正午を少し過ぎた頃、都内にある「成堂(せいどう)大学」の広い学生食堂の片隅で4人の男子学生が数当てをする手遊びの呼称について議論を交わしてた。 「バリチッチって全国共通じゃねーのかよ。」 「それ絶対タクちゃんのクラスだけだって。」 「マジで?日野小の4年2組だけかよ。」 「タクちゃん2組?俺、3組ぃ。」 「俺4の5ぉ、静海(しずみ)は?」 残りわずかのアイスコーヒーをズズッと(すす)っていた静海絢也(ジュンヤ)は「あ?」と気の抜けた声を出して、少し眉を(しか)めて答えた。 「俺、4年、だから。」 そんな絢也の答えに他の3人、西荻(にしおぎ)拓弥(タクヤ)師岡(もろおか)(ノボル)窪田(くぼた)竜磨(リュウマ)は笑い出した。 「静海んトコめっちゃ田舎じゃねーか!」 「え、お前何処だっけ実家。」 「うるせーよ!関東だっつってんだろ!」 「海沿いなんだけど防波堤ばっかで浜辺無くて遊べねーんだよなー。」 「知ってんなら()くなよ!」 「で、静海は?『いっせーの』だろ関東のド田舎は。」 「俺んとこは『指スマ』でしたぁ。」 再び絢也たちは暇を持て余すように手遊び議論を始めると、その声を聞いて呆れた声が漏れた。絢也たちのそばに、茶髪のセミロングをひっつめた女子学生がうどんを乗せたお盆を持って立っていた。 「絢也、拓弥、何してんの?」 「あ、杏菜(アンナ)だー。今から昼飯?」 「見りゃわかるでしょ。はいはい、ずれて。」 彼女、戸部(とべ)杏菜は絢也と同じ学年で同じ学部で同じゼミだ。サバサバした性格の杏菜と絢也は1年生の時から気が合う友人でこうして互いに遠慮はなかった。 「ハーァ、午後から陽川(ようかわ)先生んとこだよねぇ。」 絢也と拓弥も午後からは杏菜と同じく所属しているゼミの授業だった。最近は調査データをまとめる作業ばかりで山場は超えたので楽ではある。だから杏菜が嫌そうなため息をついている理由が絢也と拓弥にとっては不思議だった。 「陽川ゼミに今日から芸能人みたいなイケメン研究員だか講師だかが来るらしいわよ。もう見に行ったってミーハー共が大騒ぎよ。」 「何それ初耳!」 「じゃあもしかしてもしかしなくても普段は杏菜みてぇな理系オタク女子しか寄り付かない生命工学部校舎にキラキラ女子がわんさか…。」 「ご名答。ったく、尊き学び()でキャンキャンキャンキャン…。」 絢也と拓弥は女子を求めてすぐさま立ち上がって駆け足で食堂を出て行った。 「あーあ、彼女いない歴=年齢は必死だねぇ…。」 「シズちゃん必死すぎっしょ。だからコンパも惨敗するっつのに。」 「ほんっとアホ。」 皐と杏菜は呆れてため息を吐いて、竜磨は愉快そうに2人の背中を見送った。 「というか新しい研究員?こんな中途半端な時期に珍しいな。」 「まぁ女子たちの話をまとめると、最近まで会社勤めの研究員だったらしいんだけど、ちょっと病気か何かでリタイアしたのを陽川先生が捕まえたらしいわよ。」 「それただ陽川がパシリを雇っただけじゃね?」 すると3人のすぐ近くの席にキャピキャピした女子のグループがやって来た。 「ねー、超美形だったよね、五色(ごしき)さん!」 「なんで海洋学とかマニアックなとこなんだろぉ…あんなとこオタクな男子しかいないじゃーん。」 「五色瑛太(エイタ)さんだって。あの見た目で27歳って詐欺じゃね?学生でももっと老けて見える奴わんさかいるっつーの。」 「あーん、彼女とかいるのかなぁ?フリーだったらアタックしてみよーかなぁ。」 件の人物についての話題で盛り上がっていた。それを聞きながら杏菜はうどんを啜り、皐と竜磨は苦笑いを浮かべた。

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