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第10話 願わくば。。
「倭。。」
『遅くなってごめんな。』
スーツ姿の男性に包み込むように抱き締められた瑛太は、安堵の色を浮かべ彼の胸元に頬を寄せた。
ー瑛太さん。そんな顔するんだ。俺には見せてくれないんだろうな。。ー
彼の柔らかな表情が別の男に向けられているのを見つめながら、膝上に戻した手に力が籠もる。
スーツ姿の男性は瑛太の知人で間違い無いようだが…只の知り合い?友人?何方もピンと来ない。目の前に在る2人が恋人同士のように見えるのは気の所為なのだろか?
ー男同士で?そんな。まさかな。。ー
絢也は心の内でもやもやとした黒い感情が渦巻いていく己自身に困惑した。
「階段踏み外しちゃってさ。」
『夜だから視野が狭まったんだな。大丈夫か?』
「一瞬色が蘇ったんだけどね。又戻っちゃった。」
色が蘇った?一体何の話をしてるんだ?
『そっか。。怪我は無い?』
「大丈夫。要君のゼミの生徒が助けてくれたから。」
『要さんのとこの?』
「うん。そうだよ。静海君、ありがとう。」
瑛太の視線が絢也に向けられると、倭も追うように目線を移した。
『初めまして、東雲 倭です。挨拶が遅れてすまなかったね。瑛太を助けてくれてありがとう。』
左腕で瑛太を抱き寄せたまま、笑顔で右手を差し出してきた倭を見て、先程迄のもやもやとしていた感情の正体が分かった気がした。
まるで瑛太は俺の人だと誇示しているような彼の立ち振る舞いに加え、瑛太が彼に向ける熱を含んだ暖かな眼差しを目にし、苛立ちが募る。
ーこれは…この感情は…嫉妬だ。。ー
『…君。静海君?』
『え?ああっ。すみません。初めまして、静海 絢也です。成堂大学の2年です。』
慌てて左手を差し出して握手を交わすも、ぎこちない笑顔にしかならなかった。
『静海君は要さんのゼミの生徒なんだね。』
『あ、はい。東雲さん…は、陽ちゃんと知り合いなんですか?』
『陽ちゃん?瑛太、要さんは陽ちゃんって呼ばれてるの?』
「うん。ふふっ。誰かさんも最初の頃は要君の事、陽ちゃんって呼んでたよね。」
『10代の頃の話だろ?』
東雲が苦笑しながら、瑛太の髪を指先ですいた。
ーそんな恋人みたいに触れるなよ。ー
『あのっ!』
2人はどういう関係?
なんて直球過ぎるよな。。
『あ。要さんとは瑛太も俺も以前から知り合いなんだ。』
「。。そうだったんすか。」
『本来なら瑛太を助けてくれたお礼に、今夜、君を食事にでも誘いたいところなんだけど、彼の体調が良くないから、早く家に帰って休ませてやりたいんだ。』
ー家に帰って?一緒に暮らしてるのか?ー
『ああ。。そうですよね。俺の事は気にしないで大丈夫です。』
『今日は本当にありがとう。後日改めて。瑛太、立てるか?』
「うん。。」
ゆっくりと立ち上がるも足元がおぼつかない。
『ん。乗れよ』
倭が瑛太に背中を向けてしゃがんだ。
「え。恥ずかしいし、1人で大丈夫だよ。」
『おんぶとお姫様抱っこどっちが良い?』
「。。おんぶ。」
頬を染めて、倭の背におぶさる瑛太を絢也は可愛いと思った。
『じゃあ、静海君、又ね。』
「静海君、あの…助けてくれてありがとう。。」
『はい。五色さん。。又明日。』
ーいつかは俺が。。瑛太さんに頼られる男になりたい。ー
遠去かって行く2人を見送りながら、絢也はそう願わずにはいられなかった。。
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