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第13話 You’er colorful

翌朝、瑛太は昨夜の情事が無かったかのように綺麗なシーツの上にいた。寝間着用のシャツとステテコを纏って目を覚ますと、リビングの方からは朝の音と匂いがきた。 臀部(でんぶ)と腰に鈍い痛みが少々走るが、違和感はなかった。 寝室のドアを開くと、今朝はモノクロの世界が広がっていた。ただ瑛太は、「見えて良かった」と胸をなでおろした。 「おはよう。コーヒー飲むか?」 「あー……うん。」 こういう時は倭が朝食を用意してくれる。こういう時で無くても、用意する時もあるけれど。不恰好な目玉焼きとウインナーが食卓にならんでいる。 コーヒーの香りが鼻腔をくすぐって、瑛太には灰色に見えるマグカップにコーヒーが注がれた。 「要さんから連絡あったけど、再来週から調査合宿だって?」 「うん…。」 「どこに行くんだ?」 他愛ないお喋りをしながらパリッとしたワイシャツを着た倭も瑛太の向かい側に座る。 「……海芳町(かいほうちょう)だって。」 「聞いたことないな。九州とか?」 「ううん、北関東、かな。寒流と暖流のぶつかる海域の漁師町で……まぁ調査には打って付けかもね。」 「要さんが好きそうな場所だな。俺はサッパリ分かんないけど、瑛太も研究者としては楽しみじゃないのか?」 そう倭に(たず)ねられて瑛太はチクリと胸が痛んだ。ズズッとコーヒーを体内に流し込み気持ちを切り替えて弱く笑いながら瑛太は答える。 「うん、楽しみだよ。」 コーヒーの香りと味で心が落ち着いたのに、ずっとずっと視界は白黒のまま。 (……しんどいなぁ…。) そう憂鬱になりながら、昨日と同じ道を辿って出勤する。 電車を1度乗り継ぎ、地下鉄に入って、「成堂大学」に近い3b出口の階段をゆるりと上る。 「お前知ってたっぺ⁉︎ いや、サプライズ、じゃねーっぺ!」 少し歩くと、前方から大きな声で何処か地方の訛りの強い声が聞こえてくる。 (朝からうるさいなぁ…。) 瑛太は更に鬱陶しくなる。不愉快に顔をしかめて前方を見ると。 「沙優(サユ)が俺ん大学知んねわけねぇだろが!……ああ……マジか。はぇー……おう……おぉ、わーったわ。おばちゃんにぶちまわされんなよ、おう。」 どうやら電話をしていたらしい背の高い若者、恐らく成堂大の学生、その人だけは色があった。その他の物や人間は相変わらずモノクロにしか映らないのに、だ。 「シズちゃーん、おはー。」 「おーっす、っておわっ!竜磨…ぐる゛じい゛…。」 「朝からうるせーよ静海。」 「師岡よ、このひっつき虫、なんとかしでぇ……。」 その人に飛びつく少し小柄な学生も、その隣に並ぶ細身の学生も、白と黒だけ。 なのに、シズちゃんと呼ばれたその人は、髪の色は今時な茶色で、今日はライトブルーのTシャツとネイビーのハーフパンツ、リュックの色は黒だとハッキリ見える。 (俺、倭が何色のシャツを着て出勤したのかも分からなかったな……。) 肩に提げたバッグをキュッと握りしめて瑛太は俯いた。歩道のブロックも、自分の履いてるスニーカーも何色なのかわからなかった。

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