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第18話 目が覚めたら…

4人掛け回転クロスシートに各々が着く中、絢也は瑛太の姿を探した。 居た! ってか陽ちゃん… 何で五色さんと手を繋いでるんだよ… 瑛太が進行方向窓側の席に座り、陽川が彼の隣に腰を下ろそうとするのを目にした絢也は其れを制すべく、声を発した。 『陽ちゃん!』 「んぁ?絢也か。」 『あ、あのさ…』 「何だよ。早く言えよ。」 『あ、あっちで杏菜と拓也が呼んでたよ。今回の調査について、聞きたい事が有るらしいよ……』 「何だ彼奴ら、珍しく勉強熱心だな。」 『杏菜!拓也!陽川先生が、今からお前達に特別講義をしてくれるってさ。良かったなぁ〜。』 「俺はまだ返事して無いぞ。」 背中に刺す様な視線を感じ、そろそろと振り返ると、憮然とした面持ちの2人と目が合う。絢也は小さく手を合わせて拝むような仕草を彼等に見せた。 友よ、すまん! 後で何か奢っちゃるから許してくれーーーっ! 2人は絢也に舌打ちを送り、心の中でぶつくさと文句を垂れながらも、無理に口角を上げ、陽川に声を掛けた。 「「先生〜。お願いしま〜す!」」 「瑛太、お前、1人で大丈夫か?」 「うん…学生達が呼んでるよ。俺なら大丈夫だから、行ってあげなよ。」 「そうか…?」 瑛太の素っ気無い返事に、陽川はポリポリと頭を掻く。 こりゃあ、相当怒ってるな。倭にも肝心なところは伏せてたし、騙して連れ出した様なもんだから無理も無いか……落ち着いてから話をした方が良さそうだな。 『陽ちゃん。俺が此処に居るから大丈夫だよ。』 「は?お前が?何で?」 『えーっと…五色さんに、質問したい事が有るんだ。』 「揃いも揃ってどういう風の吹き回しだ?熱でも有るんじゃねえの?まぁ、良いや。彼奴らの所に行って来る。」 陽川は座席上の荷物棚に置いた自身の鞄を下ろすと、杏菜と拓也の座席へと向かった。 『此処、座って良いすか?』 「向かいの席が空いてるけど?」 『ああ。俺、進行方向に座らないと酔っちゃうんですよ。』 なんて、嘘だけど。 乗り物酔いした事なんて一度も無いし。 瑛太の返事を待たずに彼の隣に腰を下ろした。 『あの…五色さん。』 「。。。」 返事してくれない… やっぱり…この前の事怒ってるのかな?そりゃそうだよな。恋人がいるって聞いた直後にキスしてくる奴なんて、はぁ?お前何なの?って思うよな。 でもあの時、俺のキスに応えてくれてた気がするんだけど…俺の勘違いかな? 『あの…この前の事なんすけど…』 「静海君。」 『うぁっ!はいっ!』 うぁっ!って何だよ、うぁっ!って…しっかりしろよ。俺。 「これから行く所だけど、海房町って静海君の地元なんだよね?」 『へ?あ、そうですよ。』 「さっき…陽川先生が青柳漁業組合って…」 『ああ。合併する前は青柳村だったんです。』 「…合併?」 『俺の地元の青柳村と隣村が合併したんですけど、人口少ないから市にはなれなくて、海房町になりました。』 「……青柳村?」 『はい。青柳村っす。』 「。。。」 青柳村…青柳村… ――時化が酷く……_ ――……の船には…が……_ ――父さ…母…傑……_ 『五色さん、顔真っ青になってますよ?大丈夫ですか?』 「はぁっ…はぁ…」 『乗り物酔い?陽ちゃん呼びましょうか?』 「…呼ばな…はぁ…直ぐに収ま…」 乗り物酔いじゃないのか? もしかして…この前言ってた心因性とかが関係してるんだろうか?直ぐ収まるって言ったけど、酷く辛そうだ… 『五色さん。俺の膝を枕がわりにして横になって下さい。』 「だ、大丈夫…はぁ…だから…」 『大丈夫じゃないでしょ?良いから俺に身体預けて。』 半ば強引に瑛太の身体を横にさせ、彼の頭を自身の膝の上に乗せた。 『ゆっくり呼吸して、そう…』 「はぁ…はぁ…」 包み込むように支えて背中を摩ると、瑛太の呼吸が徐々に落ち着いて来た。 『少しは楽になった?』 「うん…」 『良かった。』 「はぁ…どうしてかな…」 『ん?』 「凄く安心する……」 『……着くまで寝てなよ。』 「うん…ありがとう…」 瑛太は瞼を閉じると、次第に夢の中へと落ちていった。 あの日…この唇に触れたんだ… 指先で唇をなぞると、瑛太の口端がきゅっと締まった。そっと手を離し彼の髪を優しく梳くと、再び表情が和らいだ。 俺は彼の事が、好きなのかな… 貴方の事…好きになっても良いのかな… 俺の腕の中で眠っている此の人が、目が覚めたら、他の奴なんか見ないで俺だけを見てくれるようになってたら良いのに… 瑛太の寝顔を見つめながら、雫が頬を伝い落ちた。

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