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第20話 数センチの距離。

出発から2時間半後、絢也の地元である海芳町に着いた陽川ゼミ一行が駅の改札口を出ると、先頭に居た絢也の顔が固まる。 「「お〜〜い!絢也〜〜!」」 『あ、あ、彼奴ら……』 「くっくくっ。静海、お前良い友達に恵まれてんなぁ〜。」 『陽ちゃん!ってかお前ら!その手に持ってる物を直ぐに下ろせーー!』 五色さんに見られちゃうだろぉーー!! 『童貞絢也がお世話になっております!』と書かれたのぼり旗を堂々と掲げて、絢也の名を呼んだ若い男女が笑顔で近づいて来る。絢也がそろそろと後ろを振り返ると、ゼミ一行が大爆笑している中、瑛太だけがのぼり旗を無表情のまま見つめていた。 終わった… 五色さんに俺が童貞ってバレてしまった… 恋心を気付いた直後に、俺の青春は儚く散ってしまった… 『陽川さん、ご無沙汰してます。沙優です。』 「え?沙優ちゃん?いや〜昔も可愛かったけど、綺麗になったなぁ。あの時は確か大学生だったな。」 『ふふっ。もう25歳ですよ。』 「陽ちゃん、お久しぶりです!」 「淳吾!久しぶりだな!ってかお前も陽ちゃん呼びかよ。ちったぁ嫁さんを見習えよ。」 「へへっ。」 「まさかお前らが結婚とはなぁ〜。」 俺の繊細な心を傷付けておいて、何もなかったみたいに和みやがって… 『おいっ!沙優、淳吾!』 「おっ!絢也久しぶりだな!」 『あら、アンタ居たの?』 『久しぶりだな!じゃねーよ!居たよ!さっきからずっと居たじゃねーか!のぼり掲げて俺の名前を呼んでただろーがっ!』 『あら、そう言えばそうだったわね。』 『淳吾!それ、とっとと仕舞え!』 「えー。沙優が折角書いてくれたんだぜ。」 『嫁馬鹿か?お前は親馬鹿じゃなくて嫁馬鹿か?』 『ちょっとぉーー。さっきから聞いてりゃ、ウチの旦那に生意気な口利くんじゃないよ!アンタ、ど突かれたいの?』 「淳吾はお前の旦那の前に俺の幼馴染なんですー!全く幼気(いたいけ)な少年を手篭めにしやがって。」 『ぁあん?やんのか?ゴラァーー!』 「ちょっ…沙優ちゃん、ストップ。」 『淳吾、何よ!』 「皆さんが見てるよ。」 『え…あらっ……』 ゼミ一行に目線を向けると、皆唖然とした表情を浮かべていた。 『失礼致しました。本日皆様がお泊りになる民宿、あさみ屋を営んでおります。主人の朝水淳吾(あさみや じゅんご)と、私、妻の沙優(さや)と申します。宜しくお願い致します。』 先程迄の態度は何処吹く風、一礼し、丁寧に挨拶を述べた沙優に一行は慌てて頭を下げた。 「「お世話になります。」」 「では、皆さ〜ん。あさみやの車にお乗り下さ〜い。」 淳吾が指差す先には大型ワゴン車が停まっていた。 『おい、沙優、此れ10人乗りだろ?お前ら入れると13人なんだけど。』 『男がしみったれた事言ってんなよ。黙って乗れよ。』 『。。。』 ちっくしょー元ヤンめーー!童貞をバラした上に、俺をしみったれ呼ばわりしやがって!許さん…マジで許さんぞーー!! 絢也は1番窓際に瑛太を座らせて、彼の隣を陣取る。全員がワゴンに乗り込むと案の定、車内はぎゅうぎゅう詰めになった。 「では、出発しまーす!!」 車が走り出して暫くすると、舗装されていない道に入り、ガタガタと小刻みに揺れる。絢也は瑛太の肩を抱き寄せ、自身の胸元に引き入れた。 『揺れるから…』 言い訳めいた絢也の台詞を拒否する事無く、瑛太はそっと頭を持たれ掛けて来た。 『え…』 そんなんされたら…期待しても良いのかな…? 「ごめん…俺、乗り物酔いするから…」 『あ…うん…民宿まで、少し距離が有るから寄り掛かってて…下さい。』 絢也が顔を覗き込むように下を向くと、瑛太が顔を上げた。僅か数センチの距離に、絢也は息を呑む。 ヤバい…近過ぎ… ガタンッ… 車体が大きく揺れた瞬間、数センチの距離が縮まり、絢也の唇が瑛太の額に触れた。 あ…2度目のキス…だ。

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