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第22話 だらけ…

十分程車を走らせると、本日から宿泊するあさみ屋に到着した。沙優が先に降りて再びのぼり旗を掲げ、皆に声を掛けた。 『皆さ〜ん。お疲れ様でした!あさみ屋に着きましたよー。』 ゼミ生一行も車から降りて、沙優の後に続く。あさみ屋は敷地が広く、庭の木も綺麗に剪定されていた。建物の外観は少し古いが、純和風な趣きが有る。 玄関に足を踏み入れると、宿の内観も木の温かみがあり、格子戸から明るい日が差し込んでいる。都会暮らしの生徒達は、揃って感嘆の吐息を漏らした。 宿帳に記入を済ませると、沙優から部屋の番号が記された鍵が皆に手渡された。 『先生方と女性は、一人一部屋ずつ使って下さい。残り人は三人一部屋で〜す。陽川先生が戻られるまで、皆さんお部屋で寛いで下さい。あ、露天風呂も入れますよ〜。』 各々が部屋に向かう中、只一人だけがポツンとその場に残されていた。拓也はどうして良いか分からず、恐る恐る沙優に声を掛ける。 「あの〜。俺は、どうすれば?」 『は?何アンタ?』 「俺、絢也と一緒にアイツの実家に世話になる事になってて…」 『ああ、絢也の親友ってアンタの事ね。』 「はい。西荻 拓也です。」 『名前までは聞いてないけど、まぁ、良いわ。』 (怖え…さっきの絢也との話し振りからして、此の人やっぱ元ヤンとかなんかな…いや、幾ら元ヤンでも、客にこの態度ってどうなの?あ、俺、客じゃなかった…) 「ちょっと!」 「うわっ!はいっっ!!」 心の声が聞こえてる筈も無いのに、拓也は思わず背筋をピシっと伸ばした。 『拓也君…だっけ?』 「はい…」 『アイツ…絢也の事宜しくね。』 「あ、はい…」 (…って、その笑顔ナニ?可愛いんですけどー!ツンデレ?俗に言うツンデレってやつですか?) バシッッ!! 「痛ってぇーー!!」 不意に向けられた笑顔に拓也が惚けていると、後ろから頭を勢い良く叩かれた。 「テメェ…人の嫁さんに見惚れてんじゃねぇよ!!」 振り向くと、鬼の様な形相をした淳吾が立っていた。 『あ、丁度良かった。この人、絢也の実家に泊まるからアイツの所に連れて行ってやってよ。』 「えー。俺がぁー?」 『祐正にも漁港に来いって言われたでしょ!こっちは良いから、行って来て。』 「ちぇっ、分かったよ。」 (え…叩いといてスルーですか?沙優さんも何も言わないの?今、貴方の旦那に叩かれましたけど?) 「拓也だっけ?俺と一緒に行こっ。」 先程の態度とは打って変わり、優しい笑みを浮かべて拓也に話し掛けて来た。 「あ、いや、俺は此処で待ってるから良いよ。」 「はぁ?!沙優ちゃんが居んのに、オメェ一人を残して行く訳ねぇべ!」 「…分かったよ。一緒に行くよ。」 「よしっ!じゃあ、沙優ちゃん行って来るね〜。」 『行ってらっしゃ〜い!』 (コイツも元ヤン?普段は穏やかでも、嫁の事になると人格変わる感じ?ってか…この町はヤンキーしかいねーのかよーー!!) 拓也は心の中で盛大な溜息を吐くと、再び車に乗り込み、淳吾と共に漁港へと向かった。

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